Strange Days

2002年09月28日(土曜日)

第1回南会津サイクルトレイン1日目

00時00分 自転車 天気:奇跡だ、雨が上がった!(雨のちくもり)

やる気萎え萎えの朝


 昨夜から降り始めた雨は、朝になっても上がらない。3:00過ぎには早々と起床したものの、この雨には途方に暮れてしまう。今日から二日間、南会津サイクルトレインに参加するのだ。その間中、雨に降られるなんてことになったら......。かなり気が滅入ってくる。いっそ、行くのをやめちゃおうか。この雨では参加者は少ないだろう......。いやいや、2万円も払ったのだ。参加するよりあるまい。
 ようやく決心したが、どうやって駅まで行こうか思い悩んでしまう。もうBikeEで自走することはおろか、ロードバイクの輪行すらあきらめている。持ってゆくバイクは、MR-4Fに決定。だが、立場駅までどうやってゆくか。雨具を着込んで走るのも馬鹿らしい距離だし。結局、アパートで輪行体勢を整え、駅までは傘を差してゆくことにした。小さな折り畳み傘なら荷物にならないし、自転車に乗ってないときには何かと便利だ。
 アパートを5:30に出て、地下鉄で上大岡まで。ここで京急に乗り換える。京急は都電浅草線に乗り入れており、特急便だと楽に押上まで行けそうだ。押上から、今日の乗車地である東武鉄道の業平橋駅まではすぐだ。
 京急は、乗車口付近が広く空いているので、輪行では助かる。特急便で、ほとんど止まることなく都営線に乗り込んだ。都営線では地下鉄と同様、各駅停車になる。やがて押上に到着。改札口を出て、地下道を左に進むと業平橋駅になるのだが、いきなり改札口があるだけなので、集合地点に行くのに入場券の類が要りそうだ。それも馬鹿らしいので、右に向かって一度外に出ることにした。その地下道の出口付近で、輪行解除をしている女性たちを発見。
 僕は、業平橋駅までとぼとぼと歩いていった。少し雨が降っていたので、傘を差しながらの道行きだ。かなりの苦行。なんで自転車を担いで、雨の中を歩いてゆかなければならないのだ。不条理だが、せっかく輪行不要のサイクルトレインという企画に参加するのに、出発地までわざわざ輪行するという不条理の前には、まったく誤差の範囲内だ(本当か?)。
 業平橋駅に到着すると、改札脇の駐車場前で、怪しい動きをする一団が目に入った。慌しく輪行解除をする人々、そしてその間に立って、様子を見ているスタッフらしき人々。テーブルが広げられ、受付が開設されていたので、そこで名を告げる。封筒に入った名札、注意事項等が渡されたので、ひとまず受け取って、MR-4Fを展開し始めた。
 と、そこに見慣れた顔が。おのひろき氏登場。今日はSat'R'Dayで登場。ViewPointは持ち込めなかったらしい。僕はMR-4Fを受付の奥に移動させ、名札付けの作業を続けた。その間に、にち氏、加藤夫妻、SHIG氏、くろかー氏、サリーナ女史らが登場。参加者が雨をしのげるガード下に殺到したため、かなりの混雑になり始める。
 SHIG氏はGTO車のトライクで登場。これこそ、今回の企画にふさわしい参加"車"だ。そう簡単に輪行できそうに無いからな。BikeEで参加したのは田原氏。僕もBikeEで参加したかったが。京急の込み具合なら、BikeE輪行も難しくは無かったと、今になって思う。
 さて、集合時刻が来て、どうやらほとんどの参加者が受付を済ませた模様だ。スタッフから簡単に説明があり、各自乗車開始の運びとなる。ホームまで自転車を押して行くのだが、一箇所だけ階段があった点は改善して欲しいなと思った。短い距離だからなんてことは無いのだが。
 今回のツアーは4コースに分かれている。そのうち、僕が参加するのは、自然満喫コースだ。おの氏らも同じコースだ。
 自転車は、基本的には車両片側のボックス席を潰し、網棚を利用して吊り下げる形式だ。その他、大物や輪行車はドア近くの広いスペースに置かれる。リカンベント勢はもれなくドア近辺行き。加藤夫妻のスーパートレンクルも窓際行き。これは、吊り下げるには小さすぎるからだろう。僕は『リカンベントで参加』と申告しておいたせいか、やはりドア近辺のスペースが割り振られた。MR-4Fなら吊り下げ不可能ではないのだが。荷物を車中に置いて、いったん外に出ようというとき、スタッフの一人から声を掛けられた。やまみちアドベンチャーの主催者、丹羽氏だった。最近、やまみちアドベンチャーにメンバー登録したのだが、そのことを憶えていてくださったらしい。
 参加者の年齢層は、思ったより高い。30、40代がボリュームゾーンという感じか。60、70の方もいる模様。自転車で一番多いのは、セミスリックタイヤを履かせたMTBだ。次にクロスバイク、カジュアルバイク。意外にも純粋なロードレーサーは見当たらない。一台、年配のご婦人の持ち物があるだけだ。ツーリング車もチラホラ。
 車中、田原氏と隣り合わせ、概ね田原氏と話しながら、だんだん変わって行く外の景色を眺めていた。天気は相変わらず怪しい。雨は降ったりやんだりというところか。栃木辺りで主催者側による予定、決まりごとの説明があったが、窓の外がこんな状況だからか、参加者の反応はいまいち鈍い。僕も、これではどんな悲惨なツーリングになるのだろうかと、かなり陰鬱な気持ちに浸っていた。
 しかし、しかしである。

さあ、駒止湿原へ


 終点、会津田島に近づくにつれ、次第に天気は好転の兆しを見せ始めた。雨は途切れがちになり、空も少しずつ明るくなって行く。完全に雨が上がるという気配ではないが、とりあえず途切れがちになっている。これなら、問題なく走れるかも。
 やがて会津田島に到着。慌しく荷物を降ろし、駅前でいっせいに自転車に手を入れる。といっても、走行状態のまま載せてきたのだから、出走前のブレーキ点検程度で済む。さすが、サイクルトレイン。
 今回のツアーは、本邦初の都市、地方直結型サイクルトレインということだからか、取材陣がかなり多かった。サイスポ誌は記者を同行させたようだ。 また、新聞社、テレビ局の取材もあったようだ。
 荷物はサポートカーに載せておけば、走行中適宜取り出す機会がある。いっぽう、今夜の宿に直行する便もある。僕は、その説明を良く聞いてなかったため、全ての荷物を直行便に預けてしまった。すぐ気づいて、まあいいか、補給食類はウェストバッグに詰めてあるし、と思ったのだが、気が変わって雨具だけは身に着けておいた。時折、雨がぱらつく天気だからだ。
 のんびりコース、峠チャレンジコースが手前の駅で降りたため、ここからの出発は歴史散策コースと、我々自然満喫コースだ。散策組が先に出発し、我々は最後の出発となった。東京からの同行スタッフ、現地スタッフそれぞれの紹介と、注意事項の説明の後、いよいよスタートだ。
 各自、自転車にまたがり、一列になって走って行く。先導者の他、要所要所にスタッフが先回りし、各自のペースで走れることになっている。これはありがたい。
 会津南部地方の風景は、駅の近辺こそ少し開けた地方の集落という感じだが、そこを一歩離れると、たちまち美しい農村風景と化す。田には頭を垂れるほど実のなった稲がざわめき、黄金色の穂を揺らせている。刈り入れの終わった直後の空虚な田も、何か美しい。くもりがちの空から注ぐやわらかい光が、暖色の続く稲穂の海を、暖かく照らしている。それが何面も何面も、遥か彼方まで続いている。僕もにち氏も、思わず歓声をあげる。
 針生まではそんな農道、交通量の少ない国道を、気持ち良く走って行くのだ。針生からは、いよいよ駒止峠までのアタックが始まる。暑くなりそうなので、サポートカーに雨具を預けた。上って行くと、石橋の集落辺りで、最後の覚悟ゾーン(ここで断念すれば、回収車に乗って上がって行ける)に行き当たるはずなのだが、そんな感じはない。先行していた人ともども、石橋の集落を走り抜け、やがて上り勾配に入った。本格的な上りか? とりあえず、個人的に覚悟完了!
 針生~駒止峠間は、だいたい8%程度の平均勾配だ。感覚的には、後半になるほどきつく感じた。最初のうち、足を回しながらも、少し勾配が緩まる区間では、少し筋肉を休める(もちろん回しつづけながら)ことが出来た。こんな感覚を覚えたのは初めてだった。この程度の勾配なら、いくらでも無休憩で上って行けるわい。などと坂をナメ始めたところで、来ました、急勾配。いっそう勾配がきつくなり、もう足を溜めることなんて不可能になった。スピードも14km/hから8km/h、さらには7km/h台にまで落ちてしまう。ああ、チーム5km/hの再来か。
 SHIG氏を見かけたので、ゆっくりと抜いた。トライクはいいよなあ。いくら遅くても転倒することはないのだ。このトライク、なんと81段変速(前3段、後ろスプロケット9枚+内装3段)だそうな。しかし、この坂では自重が効くのか、ゆっくりゆっくり上って行く。
 幸いにして、勾配はそれ以上はきつくならず、なんとか踏みつづけることが出来た。つらいが、楽しい。つらさが他の全てを圧倒してしまう、麦草のような事態には至っていない。つらさも、つらさとして許容し、上るにつれて変わる景色を楽しむ余裕もずっとあった。先行していたにち氏を追い抜く。だが、いくらも行かないうちに、息が切れて、とうとう足が止まった。ここで一休み。左足も攣る寸前だ。クリートの位置が、どうも合わない感覚がある。
 やがて、また踏み始め、かなり進んだ大きなヘアピンでまた一休み。先行していた人々共々、急激に高度が上がる前方のヘアピンカーブを見て、引きつり気味の苦笑いを浮かべる。だが、『こんなところ麦草に比べればなんだ、あのときのつらさはこんなものではなかったぞ』と自分を叱咤し、さらに進み始めた。
 その後は、補給食のエネルギーゲルが効いたのか、足が止まることなく、ずっと漕いで漕いで進んでいった。すぐ側を川が流れている。そのせせらぎが気持ちいい。風も暑くない。もう秋なのだ。
 坂道をひたすら進み、ヘアピンカーブでは悪態をつきながらアウトコースを回り、あまりにつらくなったら蛇行で凌ぐ。しかし、いつか回せなくなる、という感じではない。
 やがて、周囲の風景が変わった。樹木が減り、見晴らしが良くなる。と、向こうに分岐路が見え、スタッフの姿が見えた。右に行くと15%あるのではというくらいの激坂、左は今までと同じくらい。嫌な予感にとらわれながら、右を差して首を傾げてみると、「そっちです」と答えが返ってきた。がーん、大ショック(とほほ)。しかし、もうあまりないという。また力を振り絞って、その激坂を登りだした。と、それほど行くこともなく、駐車場と、そこに数人の参加者の姿を認めた。ここがゴールだ。カメラを構えるスタッフに愛想を振り撒きながら(爆)、駐車場に滑り込んだ。いい感じで湧き上がる達成感をかみ締めながら、自転車を止めた。
 駐車場には売店がある。その近くに自販機があったので、ペットボトルのお茶を買って、ほとんど空だったペットボトルと入れ替えた。売店の側に湧き水がある。ただでのめるようだ。そこに『冷やしトマト』の札を見た僕は、店番の男性に聞いてみたが、きっぱり「売り切れ」といわれた。今、よく冷やしたトマトを食べたら、凄くおいしいだろうな。次回の宿題だ(ってもう出るつもりになったのかよ)。
 ほどなく、にち氏、SHIG氏らが上がってきた。トライクは目立つ存在で、早速写真を撮られまくっていた。ともあれ、初日のメニューはこなした。

駒止湿原で迷子寸前


 にち氏と、駒止湿原を見に行こうということになった。出発は14:40ということだったので、急ぎ足で向かう。と、その前に、売店で湧き水を飲んでみた。うまい。
 この駒止湿原、道がぬかるんでいる関係で、靴がすぐ泥だらけになってしまう。雨の後だけになおさらのことだ。まあ、道なりに行けばいいのだろう、とばかりに、大自然をなめきった態度で歩き出した我々であった。雨に降られようが風に吹かれようが、身に着いた習い性は、簡単には矯正できないものだ。
 遊歩道は湿原の中に板を渡してあるもので、自然を間近にしてます、という感じがして好ましい。最初はただの原っぱのように思えたが、進むに連れて湿っぽくなり、やがて小さな沼地とせせらぎが見え始めた。自然観察の達人なら、きっと楽しい眺めなのだろうなあ。この時期は夏までのギラギラした輝きはなく、かといって秋の紅葉には早いので、いまひとつ盛り上がらない。が、緑の中を歩く時間は、それでも心を落ち着かせるものだ。
 歩く歩く、遊歩道を歩く。が......いつまで経っても帰り着かない。途中、一組のカップルに会い、『かなり歩いても戻れないので、逆に歩いてきた』などといわれていたのだが。果たしてこの道でいいのか? やがて、道はぬかるみ始めた。さっきの泥濘などかわいいものだ。さっきは靴底が汚れるだけで済んだが、今度は靴の周りまで汚れてしまう。にち氏と不安に駆られながらも歩き続ける。あっちの方からぐるっと回ってきたから、方向は合っているはずだ、などと話しつつ。時間は無情に過ぎ、とうとう集合時刻を過ぎた。これは、迷子か? 助けを求めようにも、ここは携帯電話がつかえない。もう、笑うしかない。
 まあ、いくらなんでも置いては行かれまい、などと話しつつ歩いていたら、ようやく見覚えのある場所に出て、焦眉を開いた。
 我々は大自然の脅威(プチ迷子)から辛くも逃れることができた。天候にもてあそばれるは、坂に苦しめられるは、湿原では迷子になりかけるは、実に自然を満喫できた今日一日だった。

お宿で宴会? いえいえバタンキューでした


 駐車場に再び集合する。結構キツイ坂だったが、ほとんどの人は自力で登れたそうな。特に、高橋さんという御老人は、僕などよりよほど早く、ほとんどトップグループで登ってしまったのだそうな。しかも、自転車は前シングル(38Tくらいか)、後ろ6枚の古いツーリング車だ。聞けば、ウォーキングでずっと鍛えてきたのと、以前は駅伝の選手だったということで、心肺機能がとても丈夫らしい。『駅伝ではとにかく走りきらなければ許されないので』ということだとか。三つ子の魂百までだね。
 宿には、40人超の参加者が三つに別れ、それぞれ別宿に泊まる。僕はおの氏、加藤夫妻、田原氏と同じ宿。にち氏、SHIG氏は別だ。針生まで戻り、それぞれの宿に入った。
 僕が泊まったのは『木林森』(もくもくもく)という宿で、後で聞くと薫製屋さんを兼ねているのだとか。木にこだわった宿だった。
 部屋は4人部屋で、僕とおの氏、田原氏、そして先出の高橋氏が同部屋だった。さっさと荷物を放り込み、風呂に向かう。小さな風呂だったが、汗を流すには十分だ。
 夕食時間までは、食堂でお茶を飲みながら雑談する。食事が待ち遠しくなってきた。
 6:30くらいから晩餐が始まった。この宿は薫製屋だけあって、いぶしもののレベルが高かった。メインディッシュに出てきたのは、ヤマメの刺身と、同じくヤマメの薫製。30cm以上はある立派なもので、刺身は臭みがなく、コリッとした歯ごたえがたまらない。薫製は腹から裂くときれいに身と骨が別れ、身は旨味がギュッと凝縮されていて、いくらでも酒が進みそうだ。こぐ氏が来ていたら、泣いて喜んだろうなあと想像する。
 食事が進んだところで、ミーティング兼自己紹介タイムだ。引率してくれているのは和田御夫妻。なんと、たか氏、まき氏(体調不良で欠席)と同じく、北海道600km縦走をやり遂げた方だ。今回はスタッフに回ったという。加藤夫妻。加藤直之氏いわく、『新素材マニア』。着ているものもすべて新素材だとか。加藤御夫妻の他、後二組のご夫婦が参加されていた。そして浦安から来た女性三人組。友達同士で、お一人が仲間を次々に自転車にはめていったとか。
 先の高橋氏のウォーキング談義を挟んで、真打ち(どこがだ)俺様の登場。「自転車7台持ってます」 受けました、なにか違う意味で。
 この間、サービスのビールを飲み続けていた。他のテーブルで片づかない分が、男ばかりのマイテーブルに流入して来ていたのだ。栓を抜いたまま来たので、来た分は飲まねばなるまい、などと頑張っていたら、かなりへべれけになってしまった。
 部屋に戻り、布団を敷いたのが20:00過ぎ。すぐに布団に入り、目をつぶった途端、ストンと意識が途切れた。こうして、南会津の一日は終わったのだった。