Strange Days

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2008年5月23日(金曜日)

光学兵器

科学 , 星見 , 思考 23:11:00 天気:くもり
 ずっとニコンのファーブルシリーズが欲しいと思っていたのだ。
 ありふれた公園の一角にある池から一滴取り、こいつで観察する。するとミジンコやら藻やら卵やら、なんだか正体不明の存在やらに対面できるというわけだ。なかんずくミジンコ狩りは楽しそうじゃないか。趣味として口外するのはナンだが。公園にもそのまま*1入ってゆける自転車との相性は異常。一日にいくつでも狩場を渡り歩いて、無数のミジンコと対面できるかと思うと、なんだか胸が熱くなるぜ。
 とはいうものの、ファーブルシリーズはそれなりの値段なのだ。一番安いミニでも\26000、一番欲しいフォトだと\65000だ。キャー! しかもフォトはCoolpixしか使えない。
 これは簡単に手を出せないなと思いなおし、とりあえずはルーペ型のもので楽しむ方向に頭を向けた。しかしルーペ型だとせいぜい5x程度の設定ばかりだ。これではミジンコは無理だわ。なら菌類や花粉かな。動かないので、ミジンコよりは勝算ありそうだ。
 対地光学兵器もよろしいのだが、やはりそろそろ対空光学兵器も新型導入の時期だ。8インチのシュミカセを手放して久しいが、あれは大失敗だったな。4インチ屈折程度では木星の縞には歯が立たない。まして、ここは日本一*2空の明るい横浜だ。まあヤビツにで担ぎ上げれば勝算あるかもしれないが。そんなわけで、8インチを手放して以来、木星は大赤班と縞一本の存在に成り下がっていた。白斑は無理でも、もう少し縞は増やしたい。
 というわけで、最新の8インチ鏡筒を物色中だ。いまどきの8インチはGPS+自動導入でらくちんモードが売りのようだぞ。僕の場合は見たい天体はほぼ決まっているので自動導入は要らないかもしれないが、それでもあればあったで気ままに未見の天体をハント出来るかもしれない。もっと気楽にと思ったら、経緯台に載せ変えれば済む話だろう。
 最大の問題は、部屋の中に荷物が多すぎて、置き場所を確保しにくい点か(虚ろな笑い)。
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2007年11月17日(土曜日)

東京上野国立施設群に行ってきた

科学 17:06:00 天気:晴れ
 みはる女史から誘いを受け、東京上野博物館に行ってきた。
 上野駅公園改札口に9:00ということだったので、6:30に頑張って起きた。
 D70を担いで公園口を出ると、しばらくしてこぐ氏登場。みはる女史、Asako女史、そしてこば氏が出てきた。
 国立博物館前は、開館20分以上前だというのに、100人を越える行列ができている。これは、企画展の大徳川展の入場者だ。我々の主眼は別にあったが、それが終わったら徳川展を見てもいいと思っていた。しかし、この行列は……。
 まずは主眼を見よう。国立博物館で、今VRシアターが開催されている。トッパンが主体になって作ったようで、そのウェブ解説の英語版をみはる女史が担当したのだとか。その縁で見に行くことになったのだ。表慶館エントランスで受け付けてもらい、定刻に史料館にあるVRシアターまで案内される形式だ。
 今の題材は法隆寺から皇室に寄贈された国宝、聖徳太子絵伝。かつては法隆寺の絵殿にあったのだが、痛みが激しかったため、江戸時代に模写したものと差し替えられ、秘蔵されてきたものだ。明治期に入り、廃仏毀釈の余波で仏教勢力が衰退した際に、寺宝の保持を図って皇室に献上するという手段を取ったのだ。もともとは天皇家に関わり深いものであり、またちょうど廃仏毀釈の行き過ぎからの文化財喪失に対する危機感が強まっていた時期であったこともあり、この絵伝の保護は成った。
 シアターは240インチのスクリーン*1を表示部とし、投影される画像をナビゲーターが手許のコントローラーで操ることが出来るものだ。ある程度はリアルタイムに描画しているようだ。どんなプロセッサを使っているのだろうか。
 題材の聖徳太子絵伝は、聖徳太子の生涯を、10面の屏風に描いたもの。いや、元は壁画だったのだろうか。ともあれ、それだけの広さに、太子の一生が60あまりのエピソードとして書き上げられている。しかし、それらは時系列とは無関係にちりばめられているので、それらのエピソードに明るくない者には、そもそもどういう順番なのかが分からない。
 それにしても、画像の緻密さには参った。実物の質感を想像させるに十分なものだ。
 終了後、実物を閲覧できる、法隆寺宝物館に入った。絵伝は年に1ヶ月しか公開されないらしい。館内の陳列物は、寺のものなので古い時代の仏像がやたら多い。
 実物の絵伝は、やはり痛みが激しく、何が描いてあったのか分かりにくい部分が多い。特に左端2枚は激しい。場所的なものなのか、8枚目までは修復が試みられた結果なのか。
 1Fにレストランがあったので、まだ少し早いが昼食を取った。社食の230円うどんでよしとしている拙者には、大層ハイソでお高い食事だった。たまにはよし。
 博物館の庭の大樹も、そろそろ秋色に染まりきっている。
 国立博物館を出て、次に国立科学博物館に入ることにした。大ロボット博を見ようというのだ。と、その前に。ちょうど『もやしもん』に絡めての講演があるということで、急遽立ち見することになった。もやしもんは『醸すぞ!』だけ知ってた。この漫画に絡めて、身近なカビに関する話をするという趣向で、担当した学芸員氏も「こんなに集まるとは思わなかった」という盛況だった。
 大ロボット博の方は、ガンダム、ガンダム、Asimoという感じ。会場に入ると、まずはずらりと並んだガンプラがお出迎え。ジオングにちゃんと足が生えていて、「おかしい、飾りのはずじゃなかったのか!」と唸るのがお約束となっていた*2
 1Fはステージと、会場を取り囲むようにして各種ロボットが並んでいる。ステージ後方には、こんな禍々しいものが立ちはだかっている。押井守の名も見えるので、その線なのか。こんな怖いものが待ち受けている未来なんてイヤン。しかし異空間の演出としてはナイス。
 会場には、もちろんヒトガタのロボットが多かった。しかし造型にひきつけられたのはこの車両。この流線型ぶりはコキブリ様を想起させる。えーっと、なんの用途に使うんだっけ。説明文を読み忘れました。
 なんだかコワイで賞は、この作品だ! 造型もそうだが、色合い、質感、すべてヤバイ。夜道にこんなものと行き会ったら泣いちゃうと思う。社交ダンスのお相手をしてくれるのだとか。ステップの都合上、ちょうど足の部分が空洞になっている。
 2FはAsimo特集だった。入ってすぐの場所に、歴代のAsimo*3が出迎えてくれる。この小型化っぷりは、遠近法だけじゃない。
 ステージでは30分ほどのAsimo劇が上演されている。近未来の家庭にAsimoが入ったという設定のお話だ。実物のAsimoを見るのは、実は初めて。望遠で寄って、バシバシ撮ってみた。こういう場合、VR2は非常に頼りになる。
 科学博物館を出て、ここで女性陣とはお別れだ。僕はこば氏、こぐ氏と共に、御徒町に立ち寄ることにした。
 しかし、博物館といい、科学博物館といい、また来たくなる施設だった。
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2006年8月20日(日曜日)

NHKスペシャル『論文捏造 夢の治療はなぜ潰えたのか』

科学 23:55:00 天気:晴れ
 今夜のNHKスペシャルは、今年の頭、科学界を騒がせた、韓国のファン教授による論文捏造事件の経緯を追うものだった。
 この捏造されたという論文*1のターゲットになっているのが、人のES細胞をクローニングで作り出すという技術だった。ES細胞は、生物が成長する過程で、様々な機能を持つ細胞*2へと分化する前の段階、つまりどんな細胞へも分化させられる、いわば万能の細胞を意味している。他にも人体には普通にこうした未分化の細胞*3が存在しているが、分化できる細胞の種類が決まっていたり、分裂の回数にも限界があったりで、ES細胞の万能性には及ばない。このES細胞があれば、神経や骨髄の損傷など、現代の医療では完治が難しい傷害も修復できるといわれている。
 従来、分裂初期の胎児*4から取り出したものが知られていたが、これは他人の細胞なので、どうしても拒絶反応を抑制する必要がある。使いにくいわけだ。しかし、治療を受ける本人の細胞からES細胞を作り出せばどうだろう。少なくとも、拒絶反応という点では申し分ない。しかし、成長したヒトの体にある肝細胞は、前述のようにES細胞ほどには使い勝手がよくない。
 そこで、ES細胞の核を被治療者の細胞のそれと取り替え、拒絶反応を起こさないES細胞を作り出すクローニングの手法が追及された。このクローニングの分野で有名なプレイヤーの一人が、今回捏造論文で指弾された、ソウル大学のファン教授だった。
 ファン教授は獣医学部に所属している。難易度が高いといわれる犬のクローニングに成功*5するなど、韓国獣医学会のみならず、韓国科学界のエースと見なされていた。事実、その業績を事実と受け止めた場合、医学分野でのノーベル賞有力候補といえただろう。しかし、強引な手法と、どうやら思い込みの強い性格が災いして、動物実験段階から数多くの捏造を繰り返してきたことが判明している。
 番組では、事件の経緯を追う。
 まず、獣医学の分野ではクローニングの第一人者と言われていた*6ファン教授は、いよいよ人間への応用を目指し、人の卵子を豊富に準備できる大病院と手を組んだ。そして人の卵子に、獣医学で培ったクローニングの手法を適用しようとしたのだ。当初は、ほんの少しの卵子で成功するだろうと楽観していたという。ところが、数カ月を経ても、一向に成功しない。さらに大量の卵子を用い、さらには研究員自身の卵子すら研究に用いたらしい。後の調査では、一種のアカデミック・ハラスメントが行われていたようなのだ。
 それほどの犠牲を払ったのに、実験の状況は、相変わらず捗々しくない。ES細胞化の兆しを見せるものもあったが、いずれも分裂を止め、次々に死滅して行ったのだ。だが、一つだけ分裂を続ける個体があった。ファン教授は期待を込めて、その個体の分析を、とある中堅研究者に任せた。ところが、その研究者のミスで、ES細胞の判別に必須の部分を紛失してしまったのだ。
 通常ならば、再実験、再検査だ。しかし、報告を受けたファン教授は『成功は確実なのだから』と、その個体が確かにES細胞だった見なして論文を纏め上げた。後の再検査では、細胞核入れ替えの際のミスで、通常の卵細胞のまま残されていたものと判明した。
 この論文はアメリカの科学誌Sienceに掲載され、大きな反響を呼んだ。夢のES細胞、などともてはやされたものだ。ファン教授は、一躍韓国のトップグループから、世界のトップへと立った。形だけは。
 この『成功』を足がかりに、ファン教授のグループは更なるES細胞の『生産』に着手した。もっと多くのES細胞を生み出し、さらには臨床に応用しようという目論見だ。最初の『成功』では、生み出せたES細胞は1例だけであり、これでは実利を生み出す特許出願には値しないという、共同研究者たちの後押しもあったという。
 臨床に応用しようというのだ。実際に難病を抱える人々の協力を依頼したところ、ES細胞による治療を希望する難病患者が殺到したという。そして提供を受けた細胞を基に、ES細胞の作成作業が開始された。だが、華々しいスタートと相反し、実験の経緯は絶望的なものだった。前回と同じく、多数の卵子を使用して実験していたにも関わらず、それらの実験体は次々に死滅してゆく。数少ない生き残りの培養を任されたのが、前回ES細胞の分析に失敗した研究員だった。よくよく考えると、重要な実験の『失敗』に責任を負うべき人物を、また登用するというのは、いささか異常な組織運営ではないか。多分に、組織の論理を優先してしまった面があったのだろう。日本でも欧米でも、モラルハザードに陥った組織を待ち受ける陥穽だ。
 だが、この研究員の努力にも関わらず、数少ない細胞体にも死滅の兆候が現れる。その時、この研究員は異常な行動に出る。彼のホームベースである病院に戻り、通常の卵細胞とすり替えたのだ。この経緯を知らなかった周囲の研究者たちは、はたして怪しんだのかどうかは知らないが『この人(研究員)には超能力があるのでは』などと思ったという。
 ハイ、出ましたね、キーワード『超能力』。日本でもそのパラフレーズ『神の手』が有名になった捏造事件があった。あの藤村氏と同じく、この研究員も周囲の高い期待に負け、それに応える安易な手段に走ってしまったのだ。そして期待している側は、それを受け入れてしまった。
 ファン教授は、この第二の『成功』を論文にし、それもまたSience誌に投稿した。掲載されれた論文は、この年の最重要論文の一つに選ばれ、ファン教授の名声は絶頂期を迎えた。
 しかし2005年の年末、強引な卵子確保の方法に対し、韓国MBC放送が疑問を呈する報道を行った。この報道は、しかしファン教授を擁護する政財界、さらには一般国民のすさまじい非難の前に立ち消えになった。だが、この報道は、以前からファン教授の業績に対して示されていた疑問の存在を、改めて明らかにするものになった。その強引な手法、倫理観の無さ、そしてなにより、科学的に十分検証されてないこと。それらの疑問点に対し、数多くの人が着目し、改めて追及し始めたことが、ファン教授(と、そのグループ)にとっては命取りになったのだ。
 MBCバッシングが一段落した頃、今度は第2の論文そのものへの疑義が呈された。韓国のバイオ系研究者たちのコミュニティや、日本のBBS*7で、論文の検証の薄さが指摘され始めたのだ。そして決定的な証拠が突きつけられた。論文に掲載された細胞の画像のいくつかが、実は同じ画像を加工したものであることがわかったのだ。もともと、Science誌が論文をアクセプトする過程で、不透明な働きかけがあったことは知られていたようだ。こうした動きに、今まで擁護一辺倒だったソウル大学、当局もとうとう論文、事実関係の検証に乗り出さざるを得なかった。その結論が出るまでの、韓国社会の騒乱ぶりは物悲しい。そして、ソウル大学により、論文が捏造だったこと、ES細胞の作成には一つとして成功していなかったことが公表された。それ以降の動きは、おそらくご存知の通りだろう。ファン教授は、一転して犯罪者に堕したのだ。
 番組の最後では、いかにもNHK的だが、紋切り型に『科学の信頼性が問われている』と落としていた。でも、この問題が問うているのは『科学の信頼性』なのだろうか。確かにある期間、虚偽が事実として認められてしまったことは問題だ。だが、科学という営為の性質からして、ある程度の虚偽を一定期間でも事実として認定してしまうのは仕方ない。科学的事実というのは、今現在最も信頼性の高い仮説に過ぎないからだ。無数の仮説の中からより事実らしいものを振り分けてゆく、その手続きの集合体のことを、我々は科学と呼んでいるのだ。だから、手続き*8が向上してゆく過程で、ある程度の虚偽が含まれてしまうのは、そもそもはそれが科学の本質だからとしか言いようが無い。真宗門徒が極楽浄土の存在を、ローマンカソリックがキリストの復活を"絶対的真実"と信じるようには、科学的事実というものは絶対視できない。そこが科学と宗教の違いなのだから。
 実際、ファン教授の疑惑が浮上した背景には、その実験に再現性が無いことへの指摘が多かったという事情があるようだ。誰にでも、*9実験結果を再現できるというのが、科学的手法の特徴だ。再現できないなら、公表されてない要素が存在するのか、実験そのものが間違っていると判断するしかないのだ。そしてファン教授らの論文が科学的な手続きを満たしてないという重大な誤りが指摘され、結果としてファン教授の主張は、科学的事実でないと認定されたわけだ。すべて、"科学的"な手続きを踏んでいるかどうかで判断されたわけで、つまりは"科学的"な根拠により捏造が暴露されたわけだ。
 先の『神の手』藤村氏による旧石器捏造*10の場合、発覚したのはTBSによる隠し撮りだった。これが論文を対象にした検証だったら救われたのだが、そもそも藤村氏らは論文を提出する立場に無かったので、そうした検証自体が不可能だった。石器と埋没状況を概覧すれば、実は捏造の事実は明らかだった*11のだが、考古学学会にはそれができなかったのだ。当時は、そもそも日本の考古学界の一部、少なくとも旧石器時代を対象としたものは本当の意味での学会ではないし、その手法も科学的ではない、という極論さえ散見された。つまり、日本での旧石器捏造事件での問題点は、科学的手法を促進する立場にあるはずの考古学会が、それを十分に実行できなかったという点にある。
 それに比べれば、ファン教授の場合は、とにかくも論文に記載された科学的事実への再検証により、捏造が確定したという点で、まだ科学的手法の範疇にとどまっていた。なんにせよ、科学界で業績を上げるには、論文を書いてナンボということなのだろう。
 どちらの捏造にせよ、問題は"科学的手法"そのものではなくて、それが確実に適用されたかどうかという運営論に属するということは分かるだろうか。つまり問われているのは、ファン教授の場合は教授のチームとその論文をアクセプトした雑誌、そしてファン教授の捏造を見抜けなかった協力者たちの倫理観だ。また藤村氏の捏造を、やはり見抜けなかった、日本の考古学界の科学的手順への忠誠度なのだ。どちらの場合も、科学的手順を厳密に踏めば、高い確率で発覚した捏造のはずなのだ*12。そういう問題なのに、安易に『科学そのもの』が問われているとするNHK取材班に、いささか腑に落ちないものを感じる。本来ならば安易に混同してしまってはならない問題ではないだろうか。
 さらっと書くつもりが、なんだか長くなっちゃった。日韓のナショナリズムの問題とかと絡めるつもりは無いので、その辺は濾し取りよろしく。

2000年6月22日(木曜日)

火星ニ水アリ□

科学 14:03:00 天気:くもり
 世界最大の陰謀組織(爆)NASAによれば、火星の地表に液体の水が存在しそうだということだ。
 火星の地表には多くの侵食跡が残されており、太古にはちょうど地球の地中海くらいの大きな海が存在していたとされている。生まれたばかりの頃の火星は液体の水が豊富だったのだが、火星は地球よりはるかに小さなサイズでしか無いため、水蒸気を多量に保持して置けるほどの大気を引きとめておく事ができなかった。そのために長い間に水蒸気は火星圏外に逃げ出し、今では液体の水はまったく残っていないとされていた。しかしそのようにして逃げ出す前に火星が充分に冷え、凍り付いてしまった水(すなわち氷)が、極地方や大きなクレーターの内部などに残されているのでは、と考えられていた。
 今回、液体の水が見つかったのは、地表に発達している渓谷や、クレーターの側壁からだった。正確には、ごく近い時代に水が流れた跡が見つかったということだ。火星を周回して継続観測しているMars Global Surveyorが撮影した画像を処理した結果らしい。地表のごく小さな痕跡をも見逃さず捉えたMGSの能力は、まさにスパイ衛星並といえるのではないだろうか。
 この痕跡は、恐らくは火星のあちこちに残されている氷が、地熱かなにかで急に溶け出した結果生じたものだろうとNASAの科学者たちは推測しているようだ。これは液体の水が存在していることが重要というよりも、火星で水を得るのは存外に簡単かもしれないという可能性を示唆する点のほうが重要だ。
 恐らく、いずれ火星への有人探査ミッションが企てられるだろうが、火星で水を簡単に入手できるとなると、行きの荷物を随分軽減させることができる。乗員の生活用水としてはもちろん、エンジンの反動材としても使えるはずだ。水を適当に処理すれば水素を得られるから、これを適当な熱源を使って噴射してやれば帰りの燃料まで携行する必要は無くなる。
 きっと、宇宙大好きな人々には小躍りするようなニュースだろう。まあ有人ミッションとなると無人探査とは桁違いの金がかかるので、打ち上げられる前に議会で撃墜されてしまう可能性は大きいのだが。
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2000年1月29日(土曜日)

サイエンス・アイ 宇宙デジタル図鑑(2000/1)

科学 20:50:00
 夜、鍋を食いながら(また鍋か、こいつは)サイエンス・アイの「宇宙デジタル図鑑」を見た。こんなにゆっくりと見るのは久しぶりだ。
 今回は太陽系の惑星が従えている多くの惑星の話題だった。
 話は天王星の衛星から始まる。天王星は、実は太陽系で最多の衛星を従えている惑星だ。それらの多くは、つい最近北欧の科学者たちがパロマ山の5m望遠鏡で発見したものだ。天王星の衛星たちには歴史的にシェークスピアの作品に登場する人物名が与えられている。オベロン、ティタニアはもちろん、ジュリエットもいる。それらは作品中での描写に従って性格付けされ、衛星の属性にふさわしい名前が当てはめられているそうだ。それゆえ、先の科学者たちも、改めてシェークスピア作品群を読み漁る羽目になっているらしい。
 衛星の成因には二つある。一つは惑星の生成と同様に、太陽系生成時に微惑星から生まれたタイプだ。これは惑星の兄弟星といえる。もう一つは放浪している他の小天体が、惑星の重力に捕捉されたタイプだ。これは客星というべきだろうか。
 太陽系の惑星で、衛星を持っていないのは内惑星、水星と金星だけだ。これらの惑星は太陽の強力な潮汐力を受けているが、それゆえに衛星を持てなかったのかもしれない。
 先に書いた衛星の成因からすると、地球唯一の衛星である月は、どちらの成因にも属さない特異なタイプといえる。月の成分が地球のそれと瓜二つなのは、アポロ計画に至る初期の月探査の段階で既に判明していた。月生成のシナリオは、今ではジャイアント・インパクト説として有名になっている。かつて、生成間も無い地球に大きな天体が衝突し、地球の一部を砕いてその周囲に撒き散らした。その後、小天体と地球の破片は地球の周囲で合体を繰り返し、最終的に月になったというわけだ。月は大きく、主星との比率をいえば冥王星とカロンの比を除いて最大になる。むしろ連星系だという声さえあるくらいで、事実地球にも大きな潮汐力を及ぼしている。
 火星の衛星、フォボスとダイモスは、どうも捕捉型らしい。形状からして小惑星起源であると考えられている。ところが捕捉型にしては軌道が円に近すぎるので、他に思いがけない生成シナリオがあるのかもしれない。ちなみにフォボスは火星に近すぎて、数千万年以内に火星に落下すると考えられている。
 小惑星の中にも衛星を持つものがある。小惑星帯というと小天体が密集している様を思い浮かべてしまうのだが、実は非常に広い空間に小天体が点在しているので、お互いに面積を持つ面として視認する事さえも困難なのだそうだ。互いに及ぼす重力も微少なので、衛星系のような安定した系を形成する事もあるのだろう。
 木星にはガリレオ衛星の名で知られる大きな四つの衛星を始め、多くの衛星群が巡っている。最内周にあるイオは木星の強烈な潮汐力にさらされ、四六時中大きく変形している。そのため内部は高熱の流動状態にあり、地球外で最初に確認された活火山が硫黄の噴煙を噴き上げている。
 エウロパは厚い氷に覆われた星だが、その下にはどうやら液体の水が存在しているらしい。イオほどではないが潮汐力によって内部が熱くなり、それなりに温暖らしい。その水中に地球外の生命体が存在するかもしれないと夢想する人々もいる。
 ガニメデはそのイオから放出された硫黄粒子が衝突するため、地球のオーロラのような現象が頻発している。
 カリストはガリレオ衛星としてはもっとも外周を回っているため、木星の影響が少なく、凍り付いた静かな星だ。その表面には、誕生以来刻まれてきたクレーターがそのまま残されている。このように木星の衛星系は個性豊かだ。
 土星の衛星としてもっとも有名なのはタイタンだろう。タイタンにはメタンの大気があり、有機物が豊富に含有されていると考えられている。生命が生じるには低温過ぎるかもしれないが、それでも生命の存在を予測する科学者もいる。
 土星の衛星群は内周、中間、外周と3グループに分かれている。内周の衛星群は輪と同様の起源を持っているようだ。外周の衛星群は恐らく捕捉された小惑星なのだろう、土星の自転軸に対して逆行している。
 海王星の周囲にはトリトンが巡っている。トリトンは惑星の自転方向とは逆行している珍しい大型衛星で、そうした衛星の多くは小型の捕捉型のものだ。海王星自身、自転軸が公転面に対してほぼ横倒しになっているという珍しい惑星だ。この二つを結び付けて考える説もある。つまりある時トリトンの元になった大きな天体が海王星の重心を外れた位置に衝突したというのだ。その影響で海王星の自転軸は横倒しになり、破片が集まって出来たトリトンは逆行軌道を取るようになったと推測されている。
 最外周の小さな惑星、冥王星にも大きな衛星カロンが巡っている。ほとんどガリレオ衛星並みの冥王星に対してカロンは大きく、事実上連星系だと指摘する向きもある。
 冥王星の軌道は変わったもので、海王星の軌道のさらに内側にまで入り込む、歪な楕円軌道を持っている。これは捕捉型衛星と主星の関係でも良く見られるものだ。そのため、冥王星は太陽系の重力に捉えられた迷い星だとする説もある。実は冥王星と良く似た素性を持つのがトリトンなのだ。どちらも太陽系に迷い込んできた系外の迷い星なのかもしれない。
 太陽系のガス惑星の全てが輪を持っている。土星のそれは有名だが、最初はこれが太陽系唯一の輪だと思われていた。そのため、天王星が輪を持つと判明した時には、かなりのセンセーションが巻き起こったものだ。
 NASAが所有するカイパー空中天文台(C-141輸送機に望遠鏡を搭載したもの)で天王星による星食を観察していたところ、食の前後で5回ずつ星がなにかに隠蔽されたのだ。これは冥王星の周囲に細い輪がある事を示している。その後、ボイジャー探査機による調査で木星、海王星にも輪がある事が判明し、ガス惑星に輪が付き物である事が判明した。
 ところで、この「細い輪」はなぜ形成されたのかが謎だった。すべての輪が一繋がりになった帯にならない理由がはっきりしなかったからだ。同じ事は土星の輪にあるカッシーニの間隙にもいえる。
 数学的な解析から、輪を二つの衛星が挟めば、輪は細く集束される事が分かった。そこで実地に探してみると、確かに天王星の輪を挟んだ二つの小さな衛星が見つかった。これらはその機能から羊飼い衛星と呼ばれた。羊飼い衛星は土星の輪の最外周に当たる細い輪でも見つかり、他の輪でも見つかるはずだと考えられている。
 このように、たかが衛星という言葉でくくられる星にも、いろんな種類があるものだ。
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