Strange Days

2004年01月25日(日曜日)

NHKスペシャル 「データマップ 63億人の地図」

23時00分 テレビ 天気:晴れ

 今夜のNHKスペシャルは、新シリーズ、「データマップ 63億人の地図」の第1回、2004年いのちの旅、だった。番組は、WHOや各国厚生当局が発表した資料を可視化し、様々な視点で見つめなおし、そこから新しい意味を読み取ろうとする。
 近年、日本は平均寿命という点で、世界最高の地位にある。長く続く平和は戦病死のリスクを減らし、国による統括的な保険政策がそれを裏付けている。こうした良循環が平均寿命を長く保ち続けているのだ。しかし、世界は日本のような幸運に恵まれた国ばかりではない。
 アフリカの小国シエラレオネは、現在の平均寿命がわずか35歳。多くは乳幼児のうちに死を迎える。その主因は、栄養失調だった。
 かつては豊かな農業国だったシエラレオネは、しかし近年の内戦で国土が荒れ果て、農業生産が落ち込んでいる。内戦は多くの人を傷つけ、その傷病が元で無くなる事はもとより、生産性の低下も大きい。国土が平和だったなら、国民を養うことが可能だったろう。平和であったが故に国民を養い続けるのに障害の無かった日本と引き比べると、その違いは際立っている。内戦の原因も、本来ならば大きな富を生み出すはずの鉱山資源(ダイヤモンド)の利権争いに端を発するという。
 世界の平均寿命上位の国は、ある程度必然的ながら、いわゆる先進工業諸国が占めている。世界最強の国家、アメリカ合衆国は、当然上位グループを形成している。ところが、そのアメリカの中でも、地域地域で平均寿命には差がある。その中では最低に属するウェストバージニア州では、肥満が大きな問題になっていた。食うことを止められず、命が脅かされるほどの肥満度に達する人が増えているのだ。なんと、3人に1人が肥満なんだとか。しかも、日本人の肥満とは太り方が違うというか、それは君、人として間違ってるよ、といいたくなるようなレベルに達してしまっている人ばかりのようだ。こうした携行は既に幼少時に見られ、その原因として食生活の変化が挙げられている。
 日本でも、沖縄での肥満の増加が問題になっている。長寿県で知られる沖縄だが、男性の平均寿命は、近年伸び悩んでいる。こちらでも、肉製品主体の食生活への移行が、こうした傾向を生み出しているのだと考えられている。
 先進諸国の中でも、平均寿命が下落している国がある。旧ソ連崩壊によって誕生した国々だ。ロシアでは、平均寿命が5歳も低下したという。大きな戦争が無かったにも関わらず、これほどの急落は異常なことだ。原因の一つとして、社会構造の急激な変化により、市民生活にまつわるストレスが増大していることが上げられている。
 こうして一つの『平均寿命マップ』を読むだけでも、世界各国の現状が目に見えてくる、というのがこのシリーズの狙いなのだろう。理科年鑑の類を読んで楽しんでいた人もいると思うが、一つのデータを別のデータと対比させるだけで(例えば今年の地域別平均気温とインフルエンザ死者数とか)、面白い発見があるものだ。この番組でどんな新しい読み方を提示してくれるのか、楽しみだ。

2004年01月24日(土曜日)

NHKスペシャル 「ソウルに生きる」

23時00分 テレビ 天気:晴れだったと思う

 今夜のNHKスペシャルは、「ソウルに生きる」~脱北者たちの歌舞団~
 統一の機運が生まれては、どこかで消失してしまう分断国家、韓国と北朝鮮。'90年代に入ってからの恒常的な経済危機に悩まされている北朝鮮からは、危険を承知で国外脱出を試みる者が後を絶たない。深刻な食糧危機で、餓死者が続出していると言われている。残って死ぬか、それとも国外への一か八かの脱出を試みるかの、二つに一つの賭けに乗ずる人が増えている。
 韓国では、こうして逃れてきた北の元国民に国籍と教育を与え、手厚く保護している。だが、南北の文化の違いから、韓国社会に馴染める者は少ない。番組では、こうした"脱北者"たちの現状を、彼らが結成した歌舞団の活動を追跡しながら、レポートしている。
 脱北者たちは、南北の文化、社会慣習の違い、北の出身であること自体を警戒され、思うように就職できない者が多くを占める。彼らに紹介される仕事は、きわめて条件の悪いものばかりだ。一応、韓国へと入国した際、専用の施設で教育が与えられてはいるのだが、それでも北での暮らしで身に着いたモノは、なかなか抜け落ちないようだ。結果、社会から落伍し、犯罪に走る者が後を絶たない。この点、日本国内での外国人によるそれと較べると、母数が母数だけにかわいらしくさえ見える。いや、日本で比較するべきなのは、中国残留孤児にまつわる事件の方だろうか。日本でも、やはり日本社会に馴染めず、犯罪に走る残留孤児(と家族)がいるという。
 この状況を変えるには、脱北者自身が力をあわせ、自分たちが身に着けた芸を売ってゆくしかない。北で歌舞団に所属していた女性を中心に、北朝鮮の芸能を中心に疲労する歌舞団が結成され、活動を始めていた。
 メンバーには夢があった。彼らが北の芸能を紹介することで、南北の敷居を下げ、統一の機運につなげたいというものだ。だが、仕事は思うように入ってこない。経済的な理由から、始まったばかりの歌舞団からの離脱者が相次いだ。また入ってきた仕事も、北への警戒心を煽りたいという右翼団体(日本での右翼は民族主義に近似しているが、こちらは南北の統一を力で成し遂げようという主張と見た)、客寄せとして利用したい健康器具メーカーなど、彼らの活動目的に沿ったものではなかった。後者の仕事など、ずいぶんまともなものに見えるが、リーダー格の女性はどうやら非常に誇り高く(前の職場を、言葉の訛りをからかわれてやめたという話をも考慮すると)、屈辱的に感じているようだ。だが、生きてゆくためには、そんな仕事でも笑顔でこなして行く他は無い。客の反応は鈍く、決して色よいものではないのだから。
 脱北者たちの受け入れ事業は、将来の南北統一を占う事業と位置づけられ、積極的に推進されてきた。だが潜在的には数十万に及ぶと見られる脱北者の受け入れを無制限に進めると、経済的な負担が大きくなりすぎるという批判が高まっている。一つの曲がり角に差し掛かっているといえる。南北の統一が果たして近未来に実現するのか、実現するとしてもドイツ型の吸収合併式で実現できるのか、予断を許さない。しかし、現実に南へと逃れてきた人々と、韓国社会とのコンフリクトは、様々な形で続いてゆくのだろう。