Strange Days

今夜のNHKスペシャル

2001年09月23日(日曜日) 22時52分 テレビ

 今夜のNHKスペシャルは「宇宙 未知への大紀行」"もう一つの地球を探せ"。
 人類による宇宙探査は、恒星を対象とする段階から、その恒星を巡る惑星を探査する段階へと進行しつつある。発見が期待されているのは、地球のような生命の存在しうる惑星だ。
 惑星を探すのは容易ではない。惑星は恒星と違って自ら発光することはないので、光学的な手段では捉えることが難しい。その代わり、恒星の重心のふらつきを観測することで、その周囲に別の重力源(すなわち惑星)が巡っているかどうかが分かる。
 最初の頃、学者たちは木星と同じ14年周期の変動を発見しようと努めた。もしも木星のような惑星が、木星と同じような位置にあるのなら、力学的には太陽系のような惑星と同じ構成となりうるので、地球型惑星の存在も期待できるのだ。が、長い観測にもかかわらず、それは遂に発見されなかった。しかし、別の研究グループが、驚くべき発見をした。14年周期の変動はなかった。しかし、わずか5日以下の非常に短い変動が発見されたのだ。
 発見された惑星は、恒星のごく近傍を、猛スピードで回る、木星より巨大なものだった。巨大灼熱惑星(Giant Heat Planet、とでもいうのだろうか)と名付けられたこの種の惑星は、恒星の近傍を巡るガス惑星で、恒星の重力が強いため常に一面を恒星に向けたまま、大気を高温で沸騰させている代物だ。想像を絶する天体だ。
 その後、多数の観測によって類似の惑星が多量に発見された。その代わり、地球型惑星の存在をうかがわせるものはない。巨大灼熱惑星が存在する恒星系では、地球のように安定した環境は構築できないと考えられている。どうやら、地球という星は、想像以上に宇宙の中では希有な存在であるらしい。
 どうして巨大灼熱惑星は誕生するのだろう。そのメカニズムの鍵を握るのは、惑星の数だ。太陽系では、木星クラスの巨大惑星は木星と土星のみだ。海王星、天王星はそれよりずっと小さく、また他の星は地球型の岩石優勢のものだ。もしも木星級の惑星が三つ形成されてしまったならば、その恒星系は力学的に非常に不安定になり、まず他の小さな惑星が吸収されたり跳ね飛ばされたりして一掃され、さらに三つの惑星のうち一つが恒星系からはじき出されてしまう。その過程で、恒星の近傍を巡る巨大灼熱惑星が誕生するのだ。また、恒星系を構築するためのガスが多すぎてもいけないらしい。巨大惑星が形成されやすく、前例のような事態に陥ってしまう。
 さらに、太陽系誕生から、太陽が輝き始める時期も影響していたという。太陽が輝き始めたとき、その光圧、太陽風圧で、周囲の塵が一掃された。それがもしももう少し遅かったなら、海王星や天王星はさらに成長し、結局三つの木星級惑星が生まれていたかもしれないのだ。逆に、木星が存在しなければ、地球は豊かな命の星になれなかったかもしれない。はるかオールト雲からやって来る彗星。その中でも巨大なものは、地球に衝突して、しばしば大きなインパクトを与えてきた。生命は、その危機を乗り越えることで、複雑性を増してきたのだ。しかし、もしも史実より頻繁に衝突が起こっていたならばどうだろう。生態系が立ち直る前に次の衝突が起こったならば、生命は二度と立ち直れなくなるほどのダメージを受けていただろう。木星がなければ、そうなったかもしれない。木星は、その巨大な重力で、オールト雲から飛来する彗星を吸収し続けてきた。もしも木星がなければ、地球に到達する彗星の数は、今の50倍(えっ、500倍だったっけ?)に達していただろうと推測されている。
 このように、地球の存在は、危ういバランスの上に立った奇跡的な出来事であり、あるいはこの宇宙に、地球のような生命の星は希有なのかもしれない。
 SETIに代表される生命探査への期待は、この先もずっと裏切られ続けられるかもしれないなあ。元々、宇宙には生命がありふれている"はずだ"という期待は、人間の営為の一つである科学の決まり事を鵜呑みにした結果に過ぎない(例えば宇宙の均一性とか)。科学というものは、あるかどうかはわからない人間の"外部"から、人間にとって有益なディテールを切り取ってくる活動の一つだ、と言い換えることが出来るだろう。そこには恐怖があり(人間が規定するところの生命現象は、この地球に限定されるかもしれない)、また希望(人間の想像の及ばない類のなにか、あるいは新しい人間的営為によって知りうるなにかがあるかもしれない)もあるはずだ。


Add Comments


____