Strange Days

NHKスペシャル「森と水が生んだ奇跡 世界遺産 中国・九塞溝

2002年03月05日(火曜日) 22時00分 テレビ

 夜、昼間寝すぎて眠れないうちに、CLIEがグォーっと鳴った。いや、バルカン砲を仕込んでいるわけではなく、バイブレーターが作動したのだ。バイブレーターは肩こり解消についているわけではなく(そんなに電池がもたないと思うね)、あらかじめ指定していたスケジュールの時刻になったことを知らせてくれたのだ。これで思い出したのだが、今日は前に見損ねたNHKスペシャルの再放送があるのだった。どうせ眠れないので、ビデオに撮るのではなく、直接見ることにした。
 今夜のNHKスペシャル再放送は、中国は四川省にある世界遺産の景勝地、九塞溝の紹介。
 中国、山深い四川省と中原との境に立つ山を削るようにして、Y字型に谷が走っている。そしてその谷に沿って、大小さまざまな池が点在している。ここが九塞溝だ。
 九塞溝の湖沼群は、それぞれに違った表情を見せてくれる。しかしそのいずれも、青く澄み切ったような、不思議な色に統一されている。この青、深みを帯び、しかもどこまでも透明に見通せるという、ちょっと他に無い色だ。映画『ショーシャンクの空に(これは邦題な)』で「太平洋が夢に見たような青ならいいのだが」なんて台詞があったが、これぞまさしく夢に見るべき青だろう。しかも、悪夢にも登場しそうだ。
 九塞溝の水に神秘的な青をもたらしているものは、いったいなんなのだろう。そこには、九塞溝の成り立ちが関係している。
 九塞溝の位置する山脈は、数億年前の古大陸時代には、二つの大陸の間に広がる浅瀬だった。浅瀬には殻を持つ貝類、頭足類、珊瑚が繁殖し、その屍がうずたかく積み上げられていった。それらの死骸が豊富に含む石灰質が堆積していった。やがて浅瀬は大陸移動によって隆起し始め、その圧力で石灰質は石灰岩へと変わった。遂にはうずたかい山へとのし上がり、今の姿になった。つまり、九塞溝をいただく山々には、膨大な石灰岩が含まれているのだ。
 その石灰岩は二つの役割を果たし、水を浄化する。まず、浸透した雨水は地下を移動するうちに石灰岩がフィルタとなってろ過される。そして九塞溝の水底から湧き上がった地下水は石灰を豊富に含んでおり、この石灰が水中のゴミに付着し、沈底することで、さらに水が浄化されてゆくのだ。
 九塞溝の湖底には様々な藻が繁茂しているが、砂漠のような白砂も広がっている。藻の中には石灰質を沈着させて真っ白になったものもあり、まことに見ていて飽きない多彩さだ。
 しかし、いくつもの湖沼が連なるこの眺めは、どのようにして形成されたのだろう。その答えは、山を一つ越えた隣の谷にあった。ここにも、九塞溝を凝縮したような、小さな湖沼群が形成されつつある。まるで棚田のように見える池と池を隔てているのは、積みあがった木の葉や枝を核に成長した、石灰質の壁なのだ。ちょっとした切っ掛けで水がよどみ、木の葉などが溜まり始めると、その上に石灰質が沈着し始める。やがて石灰質は壁状に成長するというわけだ。
 九塞溝では、これよりもっと大規模に壁が形成されている。その新陳代謝の中で、より広い池に水没してしまった古い壁もあり、それはまるで水底に龍が潜んでいるようだ。
 湖の中には、季節によって幻のように消えたり現れたりするものもある。水源が地下水なので、地下水位が上昇する雨季に現れ、低下する乾季には消えてしまうのだろう。こうした季節変化の大きさも、九塞溝の魅力の一つだ。
 この地勢ゆえか、植物の生態も独特なものだ。池から池へと水が流れるそのただ中に、緑を茂らせた潅木類が平然と林立しているのだ。ふつう、特殊なものを覗き、植物は根が水没すれば、呼吸が出来なくなって枯れてしまう。ところが、九塞溝の植物群は、呼吸根という水中で直接空気を取り入れる特殊な根を発達させることで、その問題を解決しているのだ。
 しかし、そもそも流水の中に種は根をおろせないはずだ。すぐに水に流されてしまう。ところが石灰質の壁は多孔質で、種が引っかかりやすく、また根をおろしやすいのだ。その結果、かなりの種類の植物が流水中に根をおろし、生い茂ることが出来るのだ。
 このように九塞溝は、地形がもたらす奇観に、植物が見事に適応した結果生まれた、見事な場所なのだ。しかしここ、日本から見に行くのは大変だろうな。


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