Strange Days

望遠鏡がやってきた

2000年02月02日(水曜日) 23時15分 星見

 帰宅すると、二つ別々の運送会社から、不在につき荷物を預かっている旨メモが入っていた。前に楽天市場で発注した荷物のうち、未着のものは三つだから残り一つだ。でも残り一つは何だろう。メモには荷物の事は書いてないし、社名はいずれも記憶に無いものだ。通販の受付はそれぞれの店舗だが、発送は別会社の通販専門会社という事かもしれないし、メーカーから直送されたのかもしれない。いずれにせよ、平日は受け取れないので、土曜日に届けてもらうように手配した。
 さて、今夜には望遠鏡が届くな、とわくわくしていると、呼び鈴が鳴って運送屋さんが荷物を持ってきた。てっきり望遠鏡だ、と顔を出すと、届いたのはなんとパソコン用デスクだった。これで全部のスケジュールが判明した。では望遠鏡は、と思っていると、その運送屋さんはさらに荷物を持ってきてくれた。望遠鏡だった。代金引換だったのでその場で支払い、遂に我が手に入った。
 望遠鏡のパーツ群を箱から取り出して組み立てていった。日曜日に望遠鏡屋さんで76EDを見た時にも感じた事だが、案外に小さいものだ。これならさほど不自由なく持ち運びできそうだ。B級品とはいうが見たところ筐体にもレンズにも汚れ、傷の類はない。あるいは僕の想像する以上に潔癖症の人が多いのか。
 Borg 100ED SW2は口径10cmの屈折式望遠鏡としてはかなり軽量で、三脚込みでも5Kg強という程度だ。軽量化のためにエンプラを多用していて、鏡筒以外はほとんどそうだといっていい。そうであるだけに、金属製の鏡筒はかなりずっしりと感じる。しかし昔持っていたVixen製5cmの方がはるかに重かった様に思う。その理由はエンプラの多用もあるが、鏡筒自体が短い事、また三脚がはるかにコンパクトである事が挙げられるだろう。鏡筒は10cmという口径の割にかなり短く、昔馴染みの屈折式望遠鏡の細長い姿とはやや趣を異にしている。この事は焦点距離が短く、F値も小さい事、つまり得られる映像が明るく、視界も広い事を示している。そのような光学系は、大きな倍率では歪む危険性が高いのだが、最近のレンズ設計の進歩のお陰で、昔ほどには歪像しなくなったらしい。レンズもかつてはせいぜい色消しの表面処理をしただけのガラス製だったが、この望遠鏡はEDガラスというプリズム効果を抑えた特殊なガラスを使用している。さらに高級品になると、フローライトという結晶石を使用したものもある。
 三脚の上に片持ち式赤道儀、望遠鏡を載せ、南の空に向けた。ベランダは寒いが、風が無いのでさほどの事ではない。この赤道儀は別に経緯台式のようにも使えるので、まずはそのように使ってみた。というか北が見えないので、赤道儀としては調節できない。
 目が悪いので、以前買った中国製双眼鏡で空を走査しながら、明るい星に向けてみた。最初は使い方が良く分からず、ピントがいまいち合わなかった、当てずっぽでいじっているうちに基本的な使い方はすぐに理解できた。この事は望遠鏡の操作系が合理的に構成されているからだと考えて良い。多少説明書を読む必要が生じたのは、直進ヘリコイドの可動範囲を超えても合焦しない場合の処置を参照した時だけだ(直進ヘリコイドそのものをずらす方法があった)。
 それがどういう星座なのかも判然としないまま眺めていたが、やがて目が闇に慣れ、肉眼でもたくさんの星が見えるようになってきた。昨日は曇っていたのだが、今夜は雲一つ無く、また風も無いのでシーイングも良好だ。そして望遠鏡で今見ている星を、双眼鏡で眺めているうちに気付いた。それはオリオン座だったのだ。三つ星が頭上高くにあって、ひさしに隠れていたので気付かなかったのだ。その三つ星の下に縦に並んだ小さな三つ星を双眼鏡で見ると、その真ん中の星がボヤッと滲んで見えた。アレッ、と思って望遠鏡を向けると、それは実はいくつかの星の集団で、周囲にボヤッとした滲みが見えた。そこでようやく、自分が眺めているものがオリオン星雲である事に気付いたのだ。
 感動した。オリオン星雲はグラビアなどでおなじみのものだが、望遠鏡で見える薄ぼんやりした姿からは頼りなさと、はかなさを感じた。人間の目は光を積算的に捉える事が出来ないので、星雲の類では写真のような映像を得る事は出来ない。が、その頼りない光は、確かに何千光年も彼方から旅をしてきたのだと僕に告げている。
 しばし、飽きもせず夜空を眺めていたが、ようやく食事と入浴の事を思い出し、望遠鏡はベランダに残してひとまず撤退した。買って良かったよ、本当に。
 食事を摂り、風呂に入って、パソコンデスクを組み立てた。これは座椅子用のもので、上面は下から30cm程度のものだ。この手のデスクは何種類もあるが、いずれも上にラックを組んでいたり、奥行きが狭かったりで20インチが入りそうに無かったので、上に何も余計なものが無く、奥行きもそこそこあるこれに決めたのだ。組み立てて、スーパー親爺椅子と組み合わせると、をを、えもいえぬ安楽さだ。一日中はまり込んでいても疲れないかもしれない。足を伸ばせるのがいい。これでPCに関しては、ようやく新居の整備が終わった。
 寝る前に、またベランダで星を見た。さっき、オリオン座を見ている時には、頭上に冬の大三角形が掛かり、シリウスの近くを人工衛星が通過するのが見えるなど、とてもにぎやかだった。ところが夜半のこの時間になると、明るい星は西に去り、空にはちょっと寂しい星座しか掛からなくなってくる。北の方では状況が違うのかもしれないが、ベランダからは南の空しか見えないので確かめようが無い。まあ、週末には近所の空き地ででも空を見る事にしよう。
 最初の感激が薄れると、この望遠鏡の欠点も分かってきた。一つは片持ち式赤道儀の剛性の低さから来る不安定さだ、少し触れるだけで視界は大きく揺れ、覗き込んで安定した像を得るのは難しい。ベランダにはエアコンの室外機も置いてあるのだが、その振動で視界が四六時中揺れてしまうほどなのだ。これは簡単さ、軽量さとのトレードオフで、買い替えで対処できるだろう。それでも軽い事は良い事だ。
 またレンズの重さから結構トップヘビーで、架台の問題とあいまって不安定な観が否めない。これも必要なら架台を買い換える事で対処できるだろう。総合的に見れば軽量化のためにいろいろ犠牲にしているようだ。しかし個人的には許容範囲ではある。


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