Strange Days

2002年11月16日(土曜日)

伊豆大島ツアー二日目

00時00分 自転車 天気:鉛色

・大島上陸
 夜中、暑苦しさに何度か目覚めた。暖房が効いてて、しかも密閉された空間なので、風が全く通らない。おかげで、やや寝苦しい思いをした。しかし、にち氏は快眠だったという。僕もそれ以外は快眠だった。何度か船の揺れを感じたことがあったが、別段眠りを妨げるほどではない。
 荷物をまとめ、デッキに出た。まだ真っ暗だ。しかし、薄明かりの中に、大島の島影がすっくと立って見える。徐々に港の岸壁が近づいてきた。
 船は静静と接岸する。次々に自転車を下ろし、伊豆大島に降り立った。朝の冷たい空気が心地よい。空は鉛色だが、ところどころ明るい部分もあり、なんとかもってくれるのではないかと思えた。
 にち氏を含むレンタルバイク組は、マイクロバスで宿に向かう。マイバイク組は、それぞれ乗車して宿に向かう。しかし、この宿が結構な高台にあるのだ。いきなり、朝飯前の運動である。
 宿は民宿的な造りで、僕とにち氏は同室希望したため、二人だけで一室を与えられた。
 荷物を部屋に置いたら、大広間で朝飯だ。卵に魚に納豆(食えません)にご飯、付け合せと、ごく当たり前なニッポンの朝食である。ところが、この朝食がうまいのなんの。なぜだかなぜか、ご飯が無性に美味しいのである。幸せな気持ちで食べていたら、南会津参加組のみなさんから『幸せそう』といわれた。
・いざ、火星へ
 食事の後は、各自着替えや入浴を済ませて、9:00に宿の前に集合した。いよいよ、伊豆大島裏砂漠(通称火星)ツーリングが始まる。メインイベントだ。
 とにかく突っ走る快走組(そんなに飛ばさないといってたが、どうだか)、まったり組、バスで砂漠入り口まで組に別れた。僕とにち氏はまったり組である。にち氏のレンタルバイクは、最近のRockHopper FSRだと思えた。結構いい自転車。EPIC号と同級グレードだ。400m弱の上りなので、あんまり苦労することも無くするすると登ってゆく。
 裏砂漠の入り口までは、大島一週道路という舗装道路を走ってゆく。とても状態のいい道で、その上、一般の車両がほとんどいないという好条件だったので、この上り自身も楽しめた。しかし、この道、なんのために造ったんだろう。僕らのため?(爆)
 今回ツアー参加者中、最高齢は71歳の御老人だ。なんでも、パラグライダーを楽しんでいたのだが、家族にもっと安全なスポーツをといわれ、MTBを始めたのだそうな。
 高所にある橋やトンネルを気持ちよく抜け、多少のダウンと多大なアップをこなして行くと、やがて砂漠入り口に到着した。ここで記念撮影。にち氏に撮ってもらった。
・火星の極冠に
 砂漠のこの辺は、まだまだ草木が多く、火山灰の露出が少ない。この火山灰が曲者だ。表面は風雨にさらされ、やや硬く締まっているのだが、その下にはさらさらと柔らかい火山灰が顔をのぞかせる。自転車で走り抜けるには、この表層を割らないように、少々テクを用いながら上ってゆかねばならないのだ。平地ならまだしも、でこぼこした上りだから、余計に気を遣う。一部のベテランメンバーを除き、かなりの参加者が押し主体で上っていった。
 三原山の火口に近づくにつれ、草木が少なくなってゆく。荒涼とした火山灰の露出が増え、次第に風景が火星らしくなってゆく。『火星』などといい始めたのは丹羽氏だが、この光景を見て、深く納得した。確かに、これは火星っぽい。
 丘をいくつも越えて行く。だんだん砂地が締まり、なんとか乗車して行ける距離が伸びていった。コツをつかんだのもあるのだろう。最後の方は、ほとんど乗車したまま、丘を登ってゆけた。表層が砕け、火山灰に足を取られても、辛抱して乗り越えて行くと、また締まった砂地に乗り上げることが出来るのだ。
 次第に霧が広がってくる中、最後の丘を越えると、低い尾根に囲まれた、今までに無く荒涼とした場所に出た。たぶん、ここは三原山のカルデラだろう。一木一草生えてない、なんて事は無いが、ほとんど生命の形跡が見られない場所だ。その辺にマース・ランダーが着陸して、探査肢を伸ばしていてもおかしくはない。そんな雰囲気。
 ここでランチ。宿のマイクロバスが追いついてきて、スタッフお手製のサンドイッチと、暖かいお茶、お湯が配布された。サンドイッチの主役は、なんといっても丹羽氏お手製のベーコンだ。肉の香りのする、ちゃんとしたベーコンは、南会津の木林森以来だ。
 しかし寒い......霧が濃くなり、風が強まってきた。こんな中で口にする暖かい飲み物は、本当にありがたい。その辺で売ってる、顆粒状のコンソメを溶かしただけのコンソメスープも用意された。なんというか、コンソメスープがこんなに美味しくて良いのかといいたくなるくらい、この状況ではありがたかった。体が冷える。南会津組は四人揃って風上に座り込んでいたのだが、僕は居ても立ってもいられず、バスの陰に避難した。バスの中は、いつの間にか満員になっている。
 後で聞くと、この日は、ここ数日のうちでは風が弱い方だったらしい。丹羽氏いわく、木、金と風が強すぎて、ダウンヒルは不可能だと思ったくらいだったらしい。ある意味、やまアドは天気に強い。
 上っている途中は暑くて汗をかくくらいだったのだが、この風ですっかり冷えてしまった。この冷気、まるで火星の極冠地帯という感じだ。
 風見鶏のようにバスの陰に回りこみながら、風をやり過ごした。
・スーパー・ダウンヒル
 ランチの後は、いよいよ火星ツアーのメインイベント、砂漠へのダウンヒルだ。それぞれのバイクを押して、最後の丘を越えた。越えた先は、外輪山の割れ目。裾野への視界が広がる、はずだが、霧のためにままならない。
 のぞき込んでみると、半端じゃない傾斜で、急激に落ち込んで行く崖だった。その向こうは、やや緩やかになりながら、遥か下方の霧の中に消えてゆく。おぼろげに見える下界の情景からは、まるで距離感がつかめない。逆に上るのは不可能だろうと思われる。ここを駆け下りるというのだ。
 和田氏のレクチャーを受け、ここから引き返す組(傾斜緩)、ダウンヒル組に分かれる。僕は弱気になりかかっていたが、にち氏に「竹本さんは行かないの?」と問われ、決心がついた。やろう。せっかくいいバイクに乗ってるんだし、ここまで来たのにやらないなんて手はない。引き返す組を選択したにち氏と別れ、ダウンヒル組に加わって、さらに傾斜を上っていった。ダウンヒルの開始地点は、さらに上だと......。
 突入地点に到達し、下界を見下ろす。霧で向こうの方が見えず、視界300m程度という感じ。しかし終点は何kmも先だ。とにかく、ブレーキを掛けすぎないで、気合で走れとの助言があったが、この傾斜は恐怖だ。
 それぞれ、十分な距離を開けて、駆け下りて行く。何人かこけた模様だが、霧の向こうで何が起こっているかは分からない。気を張り詰めて、気合を込め、行け、ダウンヒル開始だ。
 突入口から下り始めてすぐ、フロントが左に傾ぐ傾向を抑えきれなくなった。あれーっ、と思う間もなく、コテンとこけかかった。が、なんとかこらえる。場所は突入口から50mも無い地点。しかし再発進が難しい。砂がフカフカなのだ。周りを見渡すと、5m横にちょっとしたピークがあり、そこからなら水平に発進できそうだった。そこまで移動し、やや横向きに再発進、GO! なんとかフロントとリアを抑えつつ、さっきより快調に走り出せた。が、すぐに左向きの力が生じる。その時、いつもの癖で、左ペダルに深く足を掛けているのに気づいた。これ、僕がダウンヒルする時の癖なのだ。このため、左に重心が移り、左にハンドルを取られそうになっていたのだ。とっさにペダルを水平に戻すと、後は安定して下れた。
 しかし、進路には様々なものがある。特に、先行車の残した轍は、まともに突っ込むとハンドルを取られそうになる。これもこらえる。
 次第に傾斜は緩やかになり、スピード感を楽しむ余裕もうまれてきた。下っている時間は2分程度だったろうか。まるで砂地の上を滑空して行くような感覚があった。やがて、ほぼ平坦な場所に、車が通って出来た踏み跡が見え、そこがこのダウンヒルのゴールだった。ブレーキを深く掛け、文字通り滑り込んだ。振り返ると、今降りてきたのが信じられないような傾斜が、霧の中をずっと上まで上っていた。そしてそこから後続車が次々に降りてくる。
 面白かった、というより、快感だった。こんな体験は、日常では全くありえないことだ。また、いや何度でもやりたい気分だ。
・地球へ
 全員が無事にダウンヒルをこなし、その余韻をかみ締めながら、引き返し組との合流点に移動した。ここでマイクロバスで追いついてきた宿のご主人から、「その辺を一周してみれば」といわれ、適当に踏み跡をたどって走っていった。途中、丘の上から見下ろせる別の踏み跡に、合流を急ぐ引き返し組を発見。丘から駆け下りて、それに追いついた。参加者の一人がこけて両足をすりむいたとかで、応急手当を受けている。にち氏は「こっちも面白かった」といった。こっちは適度なダウンヒルが、ずっと続いているらしい。
 合流して、舗装道路まで緩傾斜を下っていった。このダウンヒルは、和田氏いわく『一番好き』だそうな。確かに面白い。快調に、30km/hくらいで走っていった。
 やがて、舗装道路に合流。まさに地球に帰還した気分だ。
 この舗装道路を少し下ると、砂漠への突入地点だった。なるほど、こういうルートを通ったのか。
 宿への帰路は、行きとはちょっと違う道を行った。どうやら台風などで寸断されたまま、放置されている道らしい。自動車は通行禁止、だが自転車は問題無い。海際の気持ちいい道を走り、やがてかなりの上り坂を経て、行きのルートに合流した。
・温泉でウハウハ
 一度宿に戻り、希望者は温泉までマイクロバスが出るということになった。着替えを手に、バスに乗り込んだ。
 温泉は露天風呂と、スパウザ風(ところでスパウザってどういう意味?)の大規模公衆浴場とに別れている。先に露天風呂に入ってみた。ここは水着必須だ。宮本氏は肩ひも付きレーシングタイツを着たまま入ったので、やたら怪しい雰囲気になった。
 この露天風呂、水温は高めなのですぐにのぼせそうになるのだが、外に出ると風ですぐに冷えるので、体を斑無く温めるのに苦労した。
 お次は屋内の浴場。それぞれ別料金だ。ここではふつうに風呂に入り、ふつうに体を洗う。そして出た。ただの温泉だなあ。しかし、体を洗えてよかった。さっぱり。
 その後は、休息室で、戻る時間まで待ったりと和む。ビールを頼む人が多かったが、そんな気分じゃなかったので、缶コーヒーを飲んだ。異様にうまい。体がコーヒーを欲していたのか。
・宴会でさらにウハウハ
 18:30からは大広間で夕食。やはり魚介類主体の献立だったが、明日葉のてんぷらというのが、揚げたてで非常に美味しい。オプションのイセエビの刺身も、身がぷりぷりして非常に美味だ。食が進む。
 一通り食べ終わったら、懇談という名の宴会が始まる。生ビールを宿の御主人に注いでいただくのだが、泡がほとんど無い、冷凍庫で凍らせたジョッキで飲むそれは、ほとんど反則すれすれのうまさだった。
 バカ話で盛り上がる。最初、南会津組で盛り上がっていたのだが、ちょっと座がばらけているうちに御子柴氏が参入、さらに宮本氏が呼び寄せられ、だんだん訳のわからない状況になってきた。にち氏は御子柴氏の連続おやぢギャグ攻撃に理性が飽和したらしく、エヘエヘと笑いっぱなしである。なにか、凶悪な脳内アヘンでも分泌されているようだ。
 宮本氏が始めたのが「なにか手に持って人に食べさせるとドキドキする」ゲーム。なんじゃそれは? 要するに何か(もちろん食えるもの)を手に持って、人にそれを食べさせるとドキドキする、って全然説明になってない。だがしかし、まさにそのままなゲーム(???)なのである。なんじゃそれはと思っていた僕だが、実際にやってみると本当にドキドキする!(核爆) なんというか、人の呼気が指にかかり、食い物を引っ張られる感覚が、妙にドキドキするのである。釣り師感覚というか。こんなバカすぎるネタで、やたら盛り上がるのである。終いには和田氏までやってきてSPECIALIZED勢が勢ぞろいしてしまった。
 僕もバカ話に加わっていたが、23:00頃に眠くなってきたので、自室に戻って爆睡した。やたら充実した一日だった。