Strange Days

2002年02月16日(土曜日)

NHKスペシャル

23時00分 テレビ

 今夜のNHKスペシャルは、「心を癒す魔法の国」。
 アメリカはフロリダ州、大小さまざまなテーマパークが密集する辺りに、一風変わったテーマパークがある。"Give Kids the World"と名づけられたこの施設は、ある限られた人々のために作られた施設だ。明日をも知れない難病と戦う子供たちと、その家族のためのものなのだ。
 この施設を作ったのは、代表を務める元実業者、ランドワース氏だ。彼はベルギーの裕福なユダヤ人一家で育った。時は第二次大戦前、やがて戦争がはじまり、一家はナチスの手で強制収容所に送り込まれた。両親は収容所で殺害され、取り残された彼はアメリカに渡り、血のにじむような努力の後、いくつものホテルを経営するホテル王にまで上り詰めた。
 経営者として成功を享受していたはずの彼が、その座を投げ打つ決意をしたのは、ある家族からのキャンセルの電話だったという。彼はキャンセルの理由を知りたいと考え、調査した。その家族は、実は不治の病に犯されていた娘との旅行を計画していたのだが、旅行の直前にその娘が亡くなり、旅行を取りやめていたことが分かったのだ。彼は家族との旅行という小さな望みさえかなわなかったその少女のことを悼んだ。家族と引き離された我が身にひきつけ、他人事とは思えなかったという。
 このことを切っ掛けに、彼は難病と戦う子供たちと、その家族のための施設を作ることを考え始めた。安らぎもなく、恐怖にさらされている彼らに、せめてひと時の安楽を、と。
 ランドワース氏は、資産の全てを売却し、フロリダ州に土地を購入した。その上で、広く寄付を呼びかけた。彼の構想で、様々なアトラクション、ゲストハウスが整備され、Give Kids the Worldがスタートした。
 Give Kids the Worldは完全無料でゲストを迎える。ゲストはアメリカだけでなく、世界各国からやってくる、難病の子供たちと、その家族だ。その渡航、滞在費用は、すべてGKWが持つ。ゲストはGKWの施設だけでなく、その趣旨に賛同する周辺のテーマパーク(例えばディズニーワールドのような)も無料で利用できるのだ。そこでもゲストは特別に扱われ、人気のあるアトラクションにも並んで待つことなく、すぐに利用できるのだ。難病の子供たちとその家族にとって、時間はあまりにも貴重なものだ。もしかしたら次はないかもしれない。そういう気配りが行き届いている。
 GKWの職員はわずかで、運営のほとんどはボランティアが賄っている。それと企業の寄付。この二つが、一家族辺り1万ドルを超えることもある費用を捻出することを可能にしている。
 ゲストの一家にとって、GKWでの時間は大きな救いになる。明日をも知れない病魔にさらされている子供と、その家族には、気の休まる時間もない。家族揃っての旅行も極めて困難だ。旅先で症状が悪化したら、どうすればいいのだろう。そういう不安を解消するための準備も、GKWではなされている。
 アメリカでは、難病の子供(どの多くは病室に閉じ込められているのだろう)の過半数が会いたいと望むのが、なんとミッキーマウスなのだとか。日本じゃ誰になるんだろうねえ。ともあれ、その声に応え、ディズニーワールドの住人も、GKWに出張してくる。連中は世界中の小児病棟にも出張しているのだそうだ。働き者だねえ。
 10年前に難病に苦しむ二人の子供とともに招待され、その後その子供たちを相次いで無くした夫婦が居る。彼らは、毎年寄付金を持ってGTWを訪れている。「子供を亡くしても、なんとかやっていけるものをここは与えてくれた。子供たちとの思い出です」と彼らは語る。そう、GTWは子供たちに魔法の、無憂の時間を与えるだけでなく、残された家族にもかけがえのない思い出を作る場を提供しているのだ。