Strange Days

2002年06月23日(日曜日)

NHKスペシャル アジア古都物語「千年の水脈たたえる都~京都」

23時00分 テレビ 天気:くもり

 面白かったこのシリーズも最終回だ。今回は、千数百年の歴史をもち、長らく日本の首府だった古都、京都の話題。
 京都には老舗が多い。それぞれに長い歴史を持つ老舗は、客が店を選ぶだけでなく、店も客を選ぶという、京都の商風土に磨き上げられてきた。それらの老舗を足元から支えてきたのが、京都に豊富に湧き出る湧き水だ。市中に数多くある和菓子屋の透明な味わいを支えているのは、あちこちにある湧き水だ。豊富で美味しい湧き水で素材を磨き、繊細な和菓子の味を作り出しているのだ。
 ある豆腐屋の主人も、地下からくみ出す湧き水で豆腐を作っている。主人はこの湧き水が高品質なことを誇りにしている。
 京都に豊富な湧き水をもたらす秘密、それは京都特有の地勢にある。京都は全体が盆地にすっぽり収まっている。その地下を探ると、地下もまた岩盤による盆地状の地形になっていることが分かっている。岩盤は水を通さないため、この盆地に降った雨は京都の地下に溜まる。その水は、盆地の南端からしか流出しないため、京都の地下は地下水が豊富に存在することになるのだ。
 この京都の主として所在してきた天皇は、古くから水にまつわる神事を司ってきた。飛鳥京の遺構を調査した結果にも現れているが、天皇は水を"支配"することで権力を維持して来たという背景がある。京都でも、もっとも湧き水が豊富な一帯に、天皇家にまつわる施設を置くことで、その支配を狙ってきた。
 京都御所の近くには、天皇家に仕え、水にまつわる神事を司ってきた、鴨家の末裔が暮らしている。鴨脚(こう書いて「いちょう」と読む)家の当主は、今でも下鴨神社などで、水にまつわる神事に参加している。鴨脚家の庭には、京都御所の池と同じ水位を示す池が掘られている。今は、ほとんど枯れているが、かつて神事にあたっては、この池で禊するのが慣わしだった。
 この池に見られるように、都市化の進んだ京都では、地下水位の低下が深刻な問題を引き起こしている。アスファルトなどで被覆された市街地では、地下水が地下に浸透しない。近年、地下水を得られなくなった老舗の中には、水道水に切り替えたり、店を畳んでしまうところも出ているという。前出の豆腐屋さんも、地下水位の低下に悩まされた。しかし、さらに地下深くまで掘り下げたところ、十分な水量を確保出来たという。
 京都の地下水が枯渇する日が来るのかどうか、予断は許さないが、毎年引き継がれる神事などに水の色が色濃く残る、水の街でありつづけることだけは間違い無さそうだ。

2002年06月09日(日曜日)

NHKスペシャル「イグネ 屋敷林が育む田園の四季」

23時00分 テレビ 天気:晴れ

 今夜のNHKスペシャルは、仙台平野に点在する小さな人工林、イグネの四季。
 イグネは居久根と書く。仙台平野に入植した植民者たちが、田畑や家屋を守るために作った、人工の林だ。イグネは、仙台平野を吹き抜ける北風を防いでくれる。番組は、イグネが残る長喜城地区の一年を追った。
 この林は人工の林であるだけに、常に人手を必要とする。里山に比べれば楽そうだが。植層が自然にはありえないだけに、木を切ればその分だけ新しい植林が必要なのだ。
 ある農家は、30年程前に家を建て替えた際、このイグネから切り出した材木だけで賄ったという。完成までに15年掛かったということだ。木を乾燥させたり、成長を待ったりするために、これだけの時間が掛かったのだろう。
 長喜城では、農業の共同化を進めており、他の地区よりも労働力不足に悩まされることは少ない。だが、農民の高齢化、若年層の流出により、やはり苦しくなりつつあるようだ。それでも盆には地区外に出ていた家族も戻り、賑やかな宴会が繰り広げられる。
 労働力不足に悩まされた末、とうとうイグネの伐採に踏み切った農家もある。市街地が間近に迫ってきており、将来どこまで林を守り通せるか、不安が残る。
 人の手で作られた林だけに、人手が無くなればあっけなく消えてしまう。だが人の手で作られたがゆえに、どこか心安らぐ小さな森。残して行ければいいなと思った。

2002年06月08日(土曜日)

NHKスペシャル「ニッポンの技が未来を開く」

23時00分 テレビ 天気:晴れ

 今夜のNHKスペシャルは「ニッポンの技が未来を開く」。日本の伝統工芸は、日本人が様々なヒントを得ながら、自らの生活の中で磨き上げてきた経験の技だ。それら伝統工芸は、近代に入って西洋科学文明による淘汰にさらされ、あるものは廃れ、あるものは文化的側面を強調することで生き残ってきた。しかし、現代の科学技術に対し、それらの伝統工芸が、様々なヒントを与えるようになっているという。
 現代文明の利器として、象徴的な存在である自動車。日本は、その自動車の生産国として実力を高めてきた。その自動車の心臓部、エンジンから、路面に力を伝えるタイヤへの伝達装置に、日本の思わぬ伝統工芸が関係している。和紙だ。
 伝達装置は、エンジンからプロペラシャフトへと、動力を滑らかに、しかも確実に伝達できなければならない。構造としては、2枚の金属プレートを密着させ、動力を伝達する仕組みになっている。しかし、ただの金属面を接触させただけではスリップが発生し、また破損の恐れもある。そこで、この部分に柔軟な素材を貼り付け、それらが擦りあうことで金属面の直接の接触を防ぎ、またその素材にオイルを浸透させておくことで、高温高圧にも耐久しやすいように工夫されている。従来、この素材としては、石綿が使われてきた。石綿は燃えず、また柔軟性も併せ持っているので、素材としては理想的だ。ところが、石綿は強い発ガン性を持つことが知られるようになり、各国で使用を禁止されている。そうなると、何らかの代替素材が必要になる。
 日本のあるメーカーは、その素材として合成素材を紙状に整形したものを試作した。ところが、ただ単に素材を繊維状にばらし、薄く整形しただけでは、素材同士がくっつきやすいため、斑が出来てしまう。これでは実用にならないのだ。そこで、メーカーはある和紙職人に助けを求めた。和紙職人によれば、和紙の場合、単純に繊維を溶かして漉くのではなく、ある添加物を加えるのだという。植物から取れる粘液状のもので、繊維を絡めとる糊のような役割をするのだ。繊維はこの糊にくるまれ、他の繊維から離れてしまう。そこで漉くと、きれいに斑の無い和紙を漉けるのだ。和紙職人は、持参の道具で、合成素材を漉いてみた。すると、きれいな和紙状の素材が出来上がった。この製法を機械化した結果、実用化された新素材は、世界市場で大きなシェアを占めることが出来たのだ。
 ニューヨーク、レストランや、そこで使う調理道具を扱う店などで徐々に売上を伸ばしているのが、日本製の包丁だという。日本刀の伝統を引き継いだ包丁は、こまやかな調理を必要とされるようになった、欧米の調理人たちに広く受け入れられつつある。切れ味に勝る点が受け、伝統的に大きなシェアを占めるドイツ製刃物に迫る勢いだという。
 ところが、シェアを伸ばしつつあった頃、欧米のユーザからのクレームが相次いだという。包丁がすぐに壊れるというのだ。欧米の調理では、大きな肉の塊を刀で叩ききるようにして切るなど、かなりハードな使われ方をする。日本製の包丁は切れ味の鋭い鋼鉄を使用しているのだが、硬い反面もろい性質があり、粗い使われ方に耐え切れなかったのだ。そこでメーカーは、日本刀の刀鍛冶に協力を求めた。日本刀でも素材は鋼鉄だ。しかし日本刀は過酷な肉弾戦に耐えられるようになっている。そこに何か秘密があるのではないか。
 秘密は、日本刀の製造工程そのものにあった。日本刀の刃は鉄に炭素を浸透させた鋼鉄であることは前述の通りだ。しかし、単純に浸透させると、炭素含有量の多い部分で斑が出来、もろいその部分から破損しやすくなる。そこで刀鍛冶は、日本刀を繰り返し鎚で打ち、"鍛える"のだ。鍛えることで、斑が少なくなり、より粘り強くなる。メーカーは斑を無くす行程を取り込み、荒っぽい使用にも耐えうるよう、製品を改良できた。このメーカーは、ますますシェアを伸ばしているという。
 日本版スペースシャトルとして開発中なのが、HOPE。完全無人の小型往還機で、H2A改によって打ち上げられる予定だ。大気圏に再突入する必要がある往還機では、機体の少なくとも一部を熱から保護する必要がある。そのため、アメリカのスペースシャトルの機体下面には、シリカ素材を使ったタイルを使用している。しかしシリカ素材のタイルは高価で、高コスト/パフォーマンスであることが必要なHOPEには、そのままでは適用できない。そこでNASDAは、陶石を使った"陶器"を使用することを考え、ある陶芸家に協力を求めた。
 陶器そのままではシリカ素材の場合より重くなってしまう。そこで陶芸家は、発泡素材を使って小さな空洞をたくさん作ることを考えた。こうすることで、強度を確保しながら軽量化も図れるのだ。
 試作されたタイルの質量比はシリカ素材より軽量に仕上がっている。HOPEが飛ぶのはまだ先だが、陶芸家の夢は膨らむばかりだ。