Strange Days

そば拳

2000年05月16日(火曜日) 12時03分 暮らし 天気:晴れかもくもりかも

 近所に「そば拳」なる蕎麦屋がある。「そば挙」でもないし「そば幸」でもない。「そば拳」なのだ。
 店構えからするとふつうの蕎麦屋だ。ふつうのサッシの引き戸に暖簾。その脇にふつうの蕎麦屋の範疇にとどまっているメニューのショーケースがある。店構えのどこにも不穏さは無い。ただ屋号だけが只者でなさを主張している。
 なにが「そば拳」なのだろう。どうにも気になる。時々、入ってみようかと思うのだが(場所的に便利なので)、引き戸を開けた途端になにが起こるかを想像すると、どうにも怖いものがある。
 もしかしてアレかな。やはり引き戸の向こうには店主が身構えていて、パンピーの迂闊な客(僕みたいなの)が入ってくるのを待ち構えているのであろうか。そして引き戸を開けた途端に「きえーい!」とか「ちぇすとーっ!」とか気合をかけながら顔面めがけて強烈な正拳突きを繰り出してくるのかな。するとなにせ迂闊な客(僕みたいなの)なので豪雨を受け止める相模湖のようにまともに食らうことであろう。これはもう吹き飛びますな。鼻血を撒き散らしながら飛ぶだろう。前歯の6本くらいもイッてるかも知れない。後頭部を硬い路面に思い切り打ち付けるのも当然のことだろう。
 もしも意識があったら店から出てきた店主の顔を拝めるだろうな。店主は容貌こそごくふつうの親父だが、眼光の鋭さで只者で無さを主張していることだろう。もしも多少の気力が残っていて、なにか不服そうな表情を見せようものなら、親父は襟首をつかんで引きずり上げてくれるだろうな。そして言い聞かせるようにしていうのだ。
「いいか、俺の蕎麦はおまえのような間抜けに食わすことは出来ん。一昨日来やがれ、この腐れド外道めがっ」
 そしてとどめのアッパーカットを食らわせてくれることだろう。
 この店主の一撃をかわした者だけ、そば拳のそばにありつくことが出来るのだ。
 さぞかしうまいのだろうって? いやいや、やっぱりまずいのである。


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