Strange Days

NHKスペシャル

2000年07月29日(土曜日) 22時18分 テレビ

 ちょっと星を見て寝ころんでいたら、NHKスペシャルが始まった。今週は以前選挙関係で潰された室生寺五重の塔再建の話題をやってくれた。
 室生寺は奈良の山中にある。国宝に指定されているのは、境内にある五重の塔だ。戦後最初に国宝に指定されたものだという。室生寺は女人高野と呼ばれ、古くから高貴な女性の信仰を集めてきた。江戸幕府の5代将軍綱吉の母も入れ込んでいたらしい。
 その室生寺の境内に立つ五重の塔は、その優美な姿から人々に愛されてきた。この塔は奈良の寺院に立つ塔の中では最小のものだという。その小さくまとまった姿は、女人高野にふさわしく優しげである。
 '98年の夏、その5重の塔が、近くにあった神木の倒壊に直撃され、大きく傷ついてしまった。檜皮葺きの屋根が大きく削り取られ、特に上二層は半壊に近い状態となってしまった。
 文化庁はこの塔の再建を検討し、無事な部分へも影響を残す解体修復ではなく、上二層だけを解体し、その他の層はジャッキアップして分離、修復するという手段を取った。これは室生寺の塔が小さく、軽いことから取られた手段だった。小さいために内部に人が入って修復するのは難しい。だが軽いためにジャッキアップするという道が開けたのだ。
 修復の過程で様々な事実が明らかになった。この塔は鎌倉、江戸、そして明治期にそれぞれ修復を受けている。そしてその度に、修理を担当した宮大工たちは、痛んだ部材をも出来るだけ再利用しようとしていたのがわかった。痛んだ部分は修復するなり切り捨てるなりして、出来るだけ残そうとした形跡がある。
 また檜皮葺きの姿は創建当時のものではなく、檜皮葺きそのものは江戸期の改修で取り入れられたことがわかった。しかも明治期の修復では、江戸期に変えられた檜皮葺きの線を優美にするため、屋根の曲線に手を加えられたこともわかった。今回の修復を担当した宮大工は熟慮の末、この低められた稜線をやや戻すことにした。
 このように文化財の修復は「原状に戻す」という単純な方針では立ち行かないもののようだ。塔を愛でてきた人々の美の意識が変遷するに連れ、塔の形も変えられてきたのだ。しかしこのような建築物を千年以上も守ってきた日本人というのは、どうしてなかなか立派なところがあるじゃないかと思う。


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