Strange Days

鹿児島ツアー2日目

2007年02月18日(日曜日) 23時55分 自転車 天気:くもり

 ようやく雨が上がった今日は、鹿児島市から知覧、枕崎を経て、長崎鼻に近い本土最南端のペンションまで走る。知覧への峠さえ越えれば平坦な道だったはずだが……。


 今日はツアー中でもっとも長距離を走る日になるはずだった。鹿児島市街地から知覧、枕崎を経由し、長崎鼻へと折り返して、そこにあるペンションに泊まるのが、大まかな行程だ。
 朝一、ホテルの前で出立準備をすると、知覧へと走り出した。知覧までには、300m程度の峠越えがある。しばらく走り、やがて登りに差し掛かった。知覧への道は、道幅は広く、きつい場所には登坂車線もあるので、あまり苦労することも無い。風も追い風気味で、ちょっと暑かったが、辛い思いはしなかった。
 登りきった辺りの公園で、後続を待つ。ヘッドパーツを修復できたBD-1は、50km/hの下りでもハンドルが暴れだすことなく、快適に下ってゆけた。もう、弱点のほとんどは潰せたと思う。重量ばかりはなんともならんがな。
 峠を越え、知覧へと下ったところで、まずは武家屋敷群の見物だ。手近な屋敷に入り、500円なりで観覧券を購入すると、7カ所の有料観覧場所に立ち入り出来るという寸法だ。他にも、各種の店や無料で観覧できる邸宅もあった。
 最初に入った屋敷の庭。この屋敷群の主たちは郡代くらいの中級武士たちだったのだろうが、かならず手入れの行き届いた庭を持っていたという。目抜き通りも石垣と生垣で綺麗に整備されていた。
 途中、知覧市の持ち物で無料に入れる家屋があった。そこで出会った人懐っこい猫。寒いのか、やたら人に擦り寄ってくる。めんこい奴だ。拙者とこば氏に大人気だった。
 自転車は武家屋敷近くにある*1蕎麦屋に置いておいた。昼時だったので、蕎麦屋に入り、各々注文する。僕はなんだか暖かいものが欲しかったので、鍋焼き蕎麦にした。正直、煮込む料理に蕎麦はどうよという感想を抱いた。
 少し走ると、知覧の平和祈念館がある。その前の公園にあった一式戦闘機の実物大模型。映画の撮影で使ったそうだ。13mm2丁装備の二型以降と思われた。
 祈念館に入り、特攻隊員たちの遺物や、せっかくフライアブルな状態で返還されたのに、それを維持できなかった四式戦闘機などを見た。特攻隊員の遺書を前に涙ぐんでいたお姉さんも見かけたが、どうも僕の胸に響くものが無かった。拙者の脳髄は、このあまりに膨大な遺品と、そこに深く刻印された思想教育の影を見るにつけ、悲劇というよりむしろ喜劇として受信してしまったように思う。もちろん、特攻作戦を立案し、無駄死にと知りながら軍だの国家だのの体面を保つために出撃を命じた奴らへの怒りはある。あるのだが、この祈念館を見渡しても、特攻を個々の小さな悲劇だの、全体主義のもたらした抽象的な悲劇だのに還元してしまっていて、じゃあ誰が悪かったのかという点がまるで見えないのだ。被害者は居る。だけど加害者は? まるでアレクシェービッチ女史のような疑問を胸に、立ち尽くさざるを得なかった。悲劇の原因全てを戦争という巨大な現象に押し付けてしまっていいのだろうか。最初の火種を熾したのは、巨大な戦争の嵐の中で、それでも守るべき人道を守れなかったのは誰か。この祈念館のどこに、その答えが埋もれていたのだろう。分からない、と暢気な旅行者である僕は、頭を抱えざるを得なかった。
 さて、暢気な旅は続く。日本初のコミューター専用空港として建設され、そのまま不良債権化している枕崎空港を過ぎ、やがて枕崎へと至った。別に先端まで行くつもりは無かった我々は、ここで2度目の昼食を取った。飯多いな!
 枕崎は鰹の街らしいので、その鰹を使ったラーメンを食した。魚醤を使って、比較的淡白に仕上げたスープだった。これはうまかった。
 枕崎は、枕崎腺の始発駅だ。その枕崎駅が素晴らしいローカルさを見せてくれた。駅舎が壊され、完全な無人駅になっていた。これが駅の全景だ。本当にこれだけしかありません。拡大解釈すれば、このゲートの横の自販機*2と、ゲートに至る、民家の脇をすり抜けて入る狭いスロープも、一応は駅の一部なのかな。
 この先、枕崎腺を着かず離れずで走る幹線道路を突っ走ってゆく。これが、意外にアップダウンがあり、なかなか消耗させられる。以前のBD-1だと、すぐに膝に来ていただろう。が、ポジションを変えてから、大腿部の筋肉を活用した大きく回すようなペダリングが出来るようになり、昔よりずっと疲労度は低かった。BD-1の弱点が、また一つ解消された。
 途中の休憩所で見た開聞岳。なんとも美しい、紡錘形の山で、薩摩富士の名に恥じないものだ。開聞岳は池田湖や鰻池が形成された後、大体4000年前から形成が始まった火山で、さらに1200年前の噴火で山頂部のドームが形成された、新しい火山だ。富士も表面の山体は比較的新しい火山だが、これらの均整の取れた紡錘形は、歴史の浅さを反映したものなのだ。池田湖のことをマールだと思っていたが、実はカルデラだったらしい。こんなでかいマールも無いよな、そりゃ。
 さらに走ってゆくと、JR最南端の駅、西大山駅がある。ここもコンパクトで可愛らしい駅だ。『記念入場券は指宿駅で発売』という看板が、我々の笑いを誘った。入場券を買うのに、なんでそこまで。
 さて、今日の宿は菜の花館という本土最南端のペンションだった。宿の前に自転車を入れると、気さくそうな奥さんが庭に止めるように勧めてくれた。早速、立ち木に縛り付ける作業をしていると、歓迎委員として人懐っこい猫が現れた。いや、人懐っこいというより、人馴れしたというべきか。今日は猫運に恵まれている。
 このペンションの売りは、猫じゃなくて温泉だ。内湯と露天があるが、いずれも手作り感満載の造りだった。入っていると、体がポカポカしてくる。
 食事もレベルが高く、焼酎も登場した辺りで、だんだん記憶があやふやになってくる。さっきの猫が食卓の近くに腰を落ち着けていたので、誘い出して愛玩していた記憶はあるのだが。宿のご主人はトライアスリートで、バイクに関しても基本的な知識があるようだった。折り畳み自転車は便利ッすよと勧めておく。
 宿の周りは静かで、睡眠も快適だった。

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