Strange Days

(勝手に)進化するマクロウィルス

2001年01月22日(月曜日) 22時40分 コンピュータ 天気:くもりなにょ

 かのmelissaの新種が発見されたそうだ。
 一世を風靡したmelissaはMSのOutlook/Outlook Express、Wordをターゲットにしたマクロウィルスだ。ウィルスの本体は何か適当で注意を惹きそうなサブジェクトの電子メールとして送付されてくる。この電子メールに添付されたWord文書を開いた時に、Wordマクロが実行されることで処理が開始される。この時、レジストリの一部に情報を書き込み、Word文書のテンプレートにウィルスを書き込むと共に、Outlook、あるいはOutlook Expressをキックする。キックされたMUAは、そのアドレス帳の先頭50グループに対して、さらに同内容の電子メールと添付Word文書を複製し、発信するわけだ。アドレス帳それぞれには多数のアドレスが記載されうるので、非常にたくさんの2次感染者が発生する可能性を秘めている。
 Melissa自身、発想は単純だし、事実非常に簡単に作成できるタイプのウィルスだ。特にユーザの介入を必要とする点で、ウィルスとしての面白みに欠けるともいえそうだ。本当に優れた(??)ウィルスは、もちろん誰の介入も必要とせず静かに広がってゆき、その感染経路も特定し難いものだろう。しかしこうしたMelissaの単純さは、無数の変種を生み出す素地を生み出している。Wordマクロはその辺のおじさんでも扱えるくらい可読性が高いので、トライ・アンド・エラーでがんばれば、プログラミング未経験者にだって改造できるのだ。そういうわけで、Melissa変種は大変に多い。例えば、Outlook、Outlook Expressを直接キックする処理に変わり、MUAのMAPI呼び出しを埋め込んだものがある。これにより、MUAがなんであれ同様のウィルスメール発行処理を実行できるので、Melissaで有効だったOutlook/Outlook Expressを使用不可にするという対策が無意味になる。
 今回の変種は、新たにMac OFFICE2001を対象としたくらいの違いでしかない。しかし、実はこれが登場した背景が面白い。McAfeeの解析チームの考えでは、このMelissa変種は誰かが改造したのではなく、Mac OFFICE2001を使っているユーザがウィルスに感染したWindows版Word文書を保存したために感染したと考えている。つまり、プログラムの原作者が考えていなかったプラットフォームにまで、期せずして拡大したというわけだ。
 この背景には、アプリケーション設計者なら誰もが夢見るクロスプラットフォーム性の追求がある。MS OFFICEは、もちろんもっとも広範に使われているオフィス・スートだろう。MSの主眼はWindows市場にあるが、Excel自身がMacで生まれた背景もあり、Macでも非常に広範に使われている。この時に問題になるのが文書の互換性だ。異なるプラットフォーム間でも、同じ文書では同じ結果(表示、印刷など)を得たいと考えるのは当然だろう。しかし今のドキュメント類は、テキスト情報だけでなくフォーマット情報、文書の属性、場合によってはプログラムさえも内蔵している。MS OFFICEのマクロもドキュメントに埋め込まれたプログラムの一種だ。これもクロスプラットフォーム性を得たい。そして実際にOFFICE文書の高度なクロスプラットフォーム性を確保した結果、そのOFFICE文書上に実装されたウィルスにまでクロスプラットフォーム性を与える結果になったというわけだ。旧来のウィルスがあるプラットフォームに強く依存したものが大半であったのに対し、マクロウィルスはその壁を比較的容易に乗り越えうる能力を秘めている。特に興味深いのが、MacでもWindowsと同じようにOutlook、Outlook Expressをキックできる点だ。今のMacでもIEが標準だし、OFFICEを入れればOutlookも入るのだろうが、キックできるということはMAPIまで実装されたのかと思う。詳しくは分からないが、MSの戦略を考えれば、自社規格の普及によるユーザ囲い込みを狙うのも必然だと思うのだ。OFFICEやWindowsを支えている足回りの規格が、クロスプラットフォーム性の追求によって普及するに連れ、Windows特有のものだった一部マクロウィルスが、さらに甚大な被害をもたらすようになる可能性を示唆しているのではないだろうか。
 このことは他のプラットフォームを使っているユーザにも当然に無縁ではない。というのは、MS OFFICEドキュメントの蓄積を無視できない他の団体が、それを別のプラットフォームで扱えるような互換環境の整備に注力しているからだ。例えば、SUNはMS OFFICE互換のStar OFFICEを様々なプラットフォーム向けに開発しているが、高度なドキュメント再現性を持たせようとするならば、当然マクロウィルスへの感染可能性まで高めてしまうだろう。Windowsユーザのドタバタを嘲笑いつつ見ていたUNIXやOS/2のユーザにも無縁なものではなくなってしまう可能性があるのだ。それもこれもMSの市場独占が影響していると思う。もしもMAPIやMSのマクロ規格がオープンな現場で生まれたものであるならば、常に批判的な検討が入ることにより、この種の単純なマクロによるウィルス実装は防げたかもしれない。危険性が早い段階で指摘されれば、危険の根は早く摘み取られただろうし、それが出来なくとも代替規格が登場することで結果的に蔓延する可能性を低減できたかもしれない。こう考えてみると、MS社の市場独占を積極的に支持し、あるいはそれを知りつつ楽観視している一般ユーザの責任も、普通考えられている以上に重いと思うのだ。これらの人々の支持なくしてMS社の強い独占体制は維持できないだろうし、そのプロダクトを盲目的に受け容れる素地無くして危険性の高いOFFICE文書の蔓延もありえない。これらMS支持者の無知が、インターネット世界の危険性を高め、しかもそれはMS支持者だけでなく他のプラットフォームにまで影響を与えているわけだ。
 反省しろよMS支持者ども。といいたいが、現在のオフィスではMSの文書規格を全く無視できないというのが辛すぎるくらい辛いところではないだろうか。正直、一刻も早くXMLベースの世界になって欲しい(なったらなったでMS"特有"のXML規格が登場するのかもしれないが)。


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