Strange Days

NHKスペシャル

2003年04月12日(土曜日) 23時00分 テレビ 天気:くもりのち雨

 今夜のNHKスペシャルは、知性派チンパンジーとして知られるアイの子供の話題だった。
 犬山にある京大霊長類研は、霊長類を使った知性の研究で知られている。猿に文字や人間特有の概念(貨幣など)を教え込み、その学習の様子を観察することで、人間がどのように文字を獲得してきたのか、そしてそのコミュニケーションを通じて人間特有の概念がどのように育まれてきたのか、という大テーマを追求している。
 研究所でいちばん有名な猿が、チンパンジーのアイだ。アイは文字を解する猿として知られている。研究者の訓練を通じて、例えば色と文字の対比を記憶し、さらに得た硬貨を欲しいものと交換するという行為を身に着けている。人間が用いている文字を見分け、それと"色"という概念とを結びつけることを学んでいるのだ。
 そのアイが、近年子供をもうけた。アユムと名づけられたオスで、生まれてほど無く、アユムも実験に参加させられてきた。いい迷惑だろうなあ。
 アユムは、半年くらいで色と漢字の対比問題に向かう姿勢を見せるなど、もしかしたら母親以上の天才かと騒がれたものだ。ところが、その後意外なことに、アユムは問題自体にはまったく興味を示さなくなってしまった。もっぱら、アイからのおすそ分けをねだるばかりだった。現金なやっちゃ。
 野生のチンパンジーは道具を使う能力を持つ。木の幹に空いた蟻の巣に小枝を差し込み、蟻を釣り上げる「蟻釣」などに見られる。それを真似た実験として、室内にたくさんのひも状の道具を散りばめ、壁の穴の向こうに見える蜜を「釣り上げる」実験も行われた。アイ親子、そしてもう一組の親子が参加した実験でも、アイはもっぱら母親が釣り上げた蜜のおすそ分けにのみ注意を注ぐのみだった。
 こんなアユムの姿勢に変化をもたらしたのは、実験室の外での成長ぶりだった。同じ年代の子供たちと遊ぶうちに、アユムのコミュニケーション能力は発達していった。そしてそれが外界への興味を引き出したのか、アユムはアイ、そして他の母猿が蜜を釣り上げる行動を観察するようになった。そして、ある時点から自分も蜜釣を試みるようになった。その時、意外にもアユムはアイが選んだ道具ではなく、別の母猿が選んだ道具を使い、蜜を釣り上げようと試みた。彼らが道具の使い方を真似るとき、単純に母子という狭い単位ではなく、群れ全体というより広い範囲で知識を共有しうることを示しているのだろう。そのアイの行動に触発されたのか、もう一匹の小猿も蜜釣を試み始めた。そして、なんとこちらの方が先に成功したのだ。アユムはその手際も詳細に観察し、やがて遂に、母猿たちとは違う、独自の方法で、蜜釣に成功したのだった。野生のチンパンジーが蟻釣技能を修得するのが3歳前後ということを考えると、実験室内での環境は、チンパンジーに早熟をもたらすようだ。
 アユムは色と漢字の対照実験にも成功するようにはなったが、得た貨幣を一つのものとしか交換できないことは理解できてないようだ。まあ、こうした楽しげな実験を通して、実験者である人間自身の根本原理が解き明かされるかもしれないというのは、面白い状況だと思った。


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