Strange Days

萌える尾形光琳

2004年01月30日(金曜日) 23時55分 思考

 いやあ、これは萌えるニュースだ。いや別にオポチュニティーたん萌え~とかの話じゃなくて。
 尾形光琳というのは、江戸時代を代表する絵師で、国宝メーカーともいえる大芸術家だ。八橋蒔絵螺鈿硯箱、燕子花図屏風なんてのを代表作として、国宝、重要文化財をゴロゴロと量産している(いや、別に国宝を作りたかったんじゃなくて、パトロンの要請に技術の粋を凝らして応えただけなんだろうが)。その光琳の最高傑作といわれるのが、箱根のMOA美術館が所蔵する紅白梅図屏風だ。これも、NHKでやってた「国宝探訪」で取り上げられたな。というか、光琳の国宝美術品は、全て取り上げられた気がする。
 この屏風、その描画手法には様々な謎があるとされてきた。例えば中央に流れる川は、今見る限りは黒っぽい染料を主体に、銀の波紋状の意匠が、川の流れを表現すべく描き込まれているのだが、この黒い川面が初めから黒かったのか、青い染料を使ったところ褪色してしまったのかで意見が分かれている。細かい手法にも多くの謎がある。たった300年前の話とはいえ、その頃の職人の仕事ぶりを知る手がかりは乏しいので、現物を調べて、想像するより他にない。
 まあ、基本的には、屏風の背景に金箔を張り(背景は金色)、水面の意匠も金箔や銀箔で処理された物と見て間違いない。そう考えられて来た。だって、その背景部分や水面の意匠部分には、箔を張り合わせたときに出来るつなぎ目が見えていたのだから。ところが、最新の知見に依れば、この部分すらも従来の見方では説明できない事が分かってきたのだ。
 まず、水面の意匠部分を、蛍光エックス線分析による非破壊試験で、成分調査したところ、実は金銀が全く含まれてなかったことが分かった。ここは箔はおろか、金属染料すらも使われず、有機染料で、しかもわざわざつなぎ目を描いて、箔を張ったように見せかけた疑いが持たれている。また金箔で処理したようにしか見えない背景部分も、実は金は成分としてはごく僅かしか検出されず、金を膠に溶いた金泥を塗布した物と考えられるようになったのだ。もちろん、背景のつなぎ目もわざわざ描いたのだろう。
 なんでわざわざそんなことしたのよ、という気がしなくもない。金を惜しまないパトロンに恵まれた光琳が、金銀を惜しんだとも考えられない。なんとなく、江戸期最高の芸術家が見せた茶目っ気のような気もする。
 これらの調査結果は、もちろん従来の諸説をすべて覆すもので、大きな驚きを持って迎えられているようだ。
 それにしても、300年というもの、目の肥えた鑑賞者はおろか、科学的分析の目にすらさらされて来た作品に、いまさらこんな新しい謎が付け加えられるとは。現代を生きる我々の想像すら絶するようなレベルにあったらしい江戸期の工芸家、芸術家たちは、いったいどんな怪物だったのだろうか。それでも想像を巡らすと、わくわくしてくる。萌えるぜ、光琳。


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