Strange Days

NHKスペシャル 「日本人はるかな旅」

2001年08月19日(日曜日) 23時31分 テレビ

 今夜のNHKスペシャルは、日本人の源流を探るという新シリーズ第一回。
 "日本人"と通常僕たちが簡潔に表現する集団について、ふつうは単一民族だと考えられている。これは民族という概念の曖昧さにも原因があるのだが、有史以来の移住者を"渡来者"として簡単に識別できてきた事情もあるのだろう。だが、日本人は有史以前から"単一民族"だったのだろうか?
 従来、日本人の源流のうち、最大の集団は南方から来たとされていた。南方や中国大陸から数次に渡る移民の波があり、縄文人の源流が醸し出されたのだとされてきた。ところが、最新の遺伝子解析は、全く予想もしなかった結果を提示した。現代日本人の遺伝子をサンプルし、それを世界中の諸民族と比較した結果、その最大のルーツが南方ではないことが分かったのだ。北方、それも極寒の地であるシベリアに、そのルーツがあったのだ。シベリアはバイカル湖の周辺に暮らす少数民族と、日本人の遺伝子が、もっともよく一致したのだ。
 そのことは考古学的にも裏づけられている。2万年も前、バイカル湖周辺にはマンモスを狩る狩猟民が暮らしていた。極寒の地ではあったが、短い春にはたくさんの植物が芽吹き、それを求めて大型動物が集まることもあり、獲物には事欠かなかったと思われる。彼らが大型動物、特にマンモスを狩るのに用いたのが、細石刃と呼ばれる特異な様式の石器だった。これは黒曜石など剥離性の高い鉱石から、細く鋭い刃を押圧式に取り出し、動物の骨で作った穂先にはめ込むというものだ。これにより、分厚いマンモスの毛皮を貫いて、狩りをすることが可能になったのだ。そしてその細石刃は、日本でも見つかっている。このことから、バイカル湖周辺に暮らしていた集団が、あるときに日本にまで移動してきたことがうかがえる。
 バイカル湖周辺の集団は、ある時に突然居住の痕跡が途絶えてしまう。その頃、地球全体を大きな気候変動が襲っていた。氷河期の極寒期に入ったのだ。大型動物は、緑を求めてシベリアを去ってしまった。狩猟の対象を失った人々は、新たな獲物を求めて移動を開始した。それが原日本人誕生の背景だった。
 その頃、極端な低温に極地や高山の氷層が分厚くなり、その分海面が低下した。その結果、日本列島には歩いて渡れる状況だったのだ。そして人々は徒歩で北海道までやって来たと推測される。しかし、津軽海峡は狭い割りに水深が深く、この時期にも干上がらなかったと思われる。しかし、氷河期の低温はこの海峡をも凍結させていた。人々は歩いて本土に渡った。本土に渡った人々は、あっと言う間に九州最南端にまで達したと思われる。
 その頃、本土は氷河期の低温により亜寒帯気候下にあり、大型動物の生息に適した針葉樹林のステップが広がっていた。狩りの獲物には事欠かなかったと思われる。ところが、やがて氷河期が終わりを告げた。すると再び急激な気候変動が始まったのだ。50年ほどで7度も気温が上昇したという。この大変動は、大型動物の多くを絶滅に追いやった。人々は、今度こそ本当に狩りの対象を失ってしまったのだ。新しい気候に適応しようとする戦いが始まった。人々は大型動物しか狩れない細石刃式の槍を捨て、小型の矢尻を備えた弓矢を生み出した。これで小型ですばしこい動物を狩り、食料としたのだ。しかし小形動物では食料の全てを賄えない。人々は、豊富な木の実に目をつけた。
 当時、森に多量にあるのは、ドングリや栃の実だった。これらは炭水化物に富み、主食とするには栄養的には十分だった。ところが、渋みが強く、そのままでは食料に出来ない。それを解決するために生み出されたのが、煮炊きのための土器だった。
 土器は、中国は東北省周辺で1万数千年前に生み出されたとされている。この辺りでは、豊富に取れる魚の油などを貯めておくための、いわば貯蔵のための土器だった。それが日本に伝わると、必要に応じて煮炊きに適した構造に作り替えられたのだ。器を極限まで薄くし、火で炙るのに適するように形を整えられたこの土器は、日本独自のものだ。世界的に見ても、これほど古くにこれほど完成された土器を生み出した土地はない。文明圏、メソポタミアやインダスで土器が用いられるようになるのは、はるか未来のことだ。日本人の創意工夫は、このころから始まっていたようだ。そしてこの土器は、縄文式土器という世界的に見ても特異な文化様式を生み出して行くのである。
 この番組、もしかして遺跡捏造事件に対する回答として作られたのかとも思える。日本人のアイデンティティが問われている今、はるか過去の出来事に目を向けることは、有意義に違いない。


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