Strange Days

神様に会ってきた

2005年07月02日(土曜日) 22時32分 音楽 天気:くもり

 正確には『神様を(遠方より)眺めてきた』だが。
 今日は昼まで寝てから体力を温存し、適当な時間に家を出た。もちろん、Jeff Beck来日公演を見るために。
 東京国際フォーラムに着いたのは、開場時間16:00のちょっと前だった。程なく入場が始まる。オフィシャルグッズとして、Tシャツとキャップを買っておいた。ストラップだのキーホルダーだのといった小物は忘れてしまいそうだし、パンフの類は確実にずたずたにしてしまいそう。いつも身につけていられる物がいい。
 ホールに入る。席は、なんと1F最後列だった! とほほ。まあ、ここはここで、後ろを気にしないでいいという利点はある。それに、列番から見て、どうせかなり後ろだろうと睨んだ僕は、ワイドビノを持ってきていた。本来はオペラグラスであるこいつは、こういう場所でも威力を発揮するはずだ。
 開演時間が近づくに連れて、場内に人が満ち始める。5000席あるここも満員の模様だ。こぐ氏は来ないなあ、と心配していたら、開演寸前にやってきた。NHKとやり取りして、時間を食ってしまったとか。それで分かったのだが、先ほどから一つ置いた席に座っておられた方が、こぐ氏のご友人だったということだ。
 客電が落ち、開園時間となる。ざわめきが一時収まると、ステージに人影がぞろぞろと入ってくる。バック隊が位置に着くと、最後にひょろりとした人影がずいと現れた。スポットライトが当たる。ジェフだ! 最初のナンバーが始まった。いきなり客席が総立ちになる。僕も思わず立ち上がる。でもその割に踊ったりはしない、不思議な光景だった。ある種の敬意の表れと解釈するべきか。
 前が立っているので、僕も立って見ざるを得ない。それにしても遠いよ。豆粒みたいだ。それでも、ジェフ・ベック以外には誰にも出せそうも無いサウンドが押し寄せてくると、思わず胸が一杯になる。それにこれがある、と、ワイドビノを構えた。ステージがくっきりと見える。セットは異様にシンプルで、ジェフの背後にドラム、向かって右手にベース、キーボードという編成。
 イントロ、それに続く曲は人の曲か新曲らしく、耳慣れなくて戸惑った。が、次にいよいよ御馴染みのイントロが始まった。You Never Knowだ。これ、昨日見たDVDでもやっていて、近年のステージでの常連らしい。ズンズン進むリズム隊をバックに、ファンキーなサウンドを刻むジェフは、とても還暦を迎えたとは思えない。動きも年寄り臭さは微塵も感じさせなかった。いいねえ、こういうファンキーな年寄りになりたいもんだ。
 次は哀しみの恋人たち。しっとりと聴ける美しいサウンドであり、落ち着いた、綺麗なライティングだったのだが、客席はなぜか総立ちのまま。立ちっぱなしだと辛いので、ここは流石に座って聴いた。どうせ後ろだし。
 中盤ではボーカルが入る。声質からすると、FlashでAmbitionsを歌った人か。声量が大きくて安定しているのだが、華が無いのが辛いところ。やはりジェフに絡むには、ロッド・スチュワートのように癖のある声質か、ポール・ロジャースのように一声でどこの誰だか分かるような存在感を持ってなければ。曲はジミヘンと、たぶんジェフの近年の曲からかな?
 前半最後はジェフの持ち曲から三連打。御馴染みのイントロが始まると、客席から歓声が上がる。Star Cycleだ! シーケンサーで代用できそうなくらいに無機質なリズム隊をバックに、ジェフが縦横無尽に弾きまくる。最近のジェフはテクノっぽいエレクトリックサウンドに傾倒しているようだけど、この曲はその嚆矢になったいえよう。次にGuitar ShopからBig Block。カッティングでざくざく刻まれてゆく音に痺れる。そして前半最後を飾ったのは、Scatter Brain! これをやってくれるとは。ジェフが暴走気味で、バック隊がコード進行を合わせるのに苦労している様子がうかがえて、ちょっと笑えた。
 前半終わり。10分の休憩が入る。正直、この席で9000円は高いよなと思っていたのだが、この時点でそんなものは問題ではないと確信していた。ただ、もっと高倍率の双眼鏡を持って来ればよかったな。
 トイレに行くと、流石にずらりと待ち行列が伸びている。年齢層はかなり高めだ。平気で40、50代の男女が混じっている。ボリュームゾーンは30代だろうか。みんな『すげえなあ』と口々に話している。
 席に戻ると、すぐに後半戦が開始。整然としたd.から入るBeck's Boleroに続き、良く分からない曲が挟まったが、新曲タイムだったのだろうか。自分の不勉強が悔やまれる。
 ちょっとだれ気味の気分も、次のイントロが始まると吹き飛んだ。Led Bootsだ! これをやってくれるとはなあ。この曲では、k.が頑張ってくれたので、かなり燃えた。ジェフがまたしても暴走気味で、またコード進行を合わせるのに苦労している様には笑いが出た。それくらい白熱のステージだった。
 中盤は、またしてもv.が入る。このv.上手いんだけど、ちょっと鬱陶しい声質の持ち主だ。今日のステージでは、もっと聞かせてくれる声の持ち主だったら良かったかな。とはいえ、ジェフのg.に負けない迫力ではあった。
 Goodbye Pork Pie Hatと近年の曲を挟み、トリはこれだ、Blue Wind!*1 せっかくの燃え曲。だが僕にはいまいちに思えた。というのが、k.が全然前に出てこないのだ。このk.、テクはあるのだろうが、いまいちでしゃばりでないのと、どうもジェフとの接続がスムーズでなくて、何度もカックンとさせられた人だ。それでも、この曲ではヤン・ハマーばりにがんがん前に出て欲しかった。しかし、消化不良気味の気分も、ジェフがその分ガンガン弾き倒してくれたので、ずいぶん解消されたものだ。
 気がつくと、既に1時間半。満場の大歓声の中、ステージから引き上げてゆく。もちろん、総立ちでアンコールのおねだり。やがてv.を引き連れて戻ってきて、始まったのが、People Get Readyだった。聴かせる曲だなあ。v.の人も、この曲ではまあまあはまって聞こえた。しかしジェフのソロに繋がるところでは、ロッドばりにハウルして欲しかったところ。あれを待ち構えていた客席が、またしてもカックンしてしまったのは間違いあるまい(笑)。
 そしてk.と二人だけが残ると、しんみりとOver the Rainbowを弾き始めた。リッチー・ブラックモアを嚆矢に、ネオクラ系御用達の曲だと思い込んでいたのだが、流石にジェフが弾くと様になる。k.とうまくかみ合わなくて『あれ、今どこ弾いてるの?』ってな場面もあったが。しんみりと最後の音が零れ、またしても満場の拍手の中、裾に消えてゆく。
 早速始まるアンコールへのおねだり。しかし、昨日はアンコール一回だけだったというから、無いかなとも思っていた。だが、なかなか客電が点かない。これはもしかして、と思い始めたところで、遂に再登場。弾いたのはGoing Down。当然v.付。この曲はJBG時代のものだったかな。最後というつもりなのか、v.も熱が入っていて、素晴らしかった。ただ動きが鬱陶しいな(汗)。
 これで正真正銘の最後。メンバーが裾にぞろぞろと消える際、ジェフがストラトを客席に投げ込む真似をして、笑いを取っていた。きっちり2時間、職人集団を従えた天才のステージを堪能したという気分だった。
 バックのd.は凄かったな。音もでかいがテクも凄い。迫力でジェフにちっとも引けを取らなかった。やはりドラムに重鎮を据えると、ステージがビシッと締まる。
 b.は仕事師という感じで、ずっと定位置に突っ立ったまま、ひたすらジェフのプレイを支えていた。正直、Wired前後のように攻撃型b.と掛け合うジェフを見てみたかった気もしないではないが。
 v.は、きっとレコーディングでは素晴らしいんだろう(笑)。でもジェフと積極的に絡むので、ステージでもまあまあ聞けた。あのせこせこ動き回る癖さえなければ。
 問題はk.か。せっかくヤン・ハマー絡みの楽曲が多かったのだから、もっと前に出るタイプであって欲しかった。特にBlue Wind、Star Cycleでは、ジェフにガンガン絡んで欲しかったのだが。
 ともあれ、ギターの神様に会えて胸いっぱいだ。今夜は眠れないかも。などと嘯きつつ、帰宅早々に寝入ってしまった我輩であった。また来日して欲しいな。


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