Strange Days

九州北部山岳戦(2日目)

2007年04月29日(日曜日) 23時55分 天気:なかなか好天気

 2日目の今日は、日田から耶馬溪を経て、中津へと抜ける予定だ。耶馬溪へは、日田往還の幹線を避け、県道720号を取ることとした。ところが、なんの期待もせず、単に通過するだけに過ぎないはずだったこの道が、思いがけなくも素晴らしいものだった。


 ホテルでは、自転車を裏の駐輪場に止めるように言われたのだが、心配なので畳んで部屋に持ち込んでいた。故に、朝一の仕事は、自転車を下まで運ぶことだった。
 チェックアウトして、まずはコンビニに立ち寄って、今日の補給物資を仕入れておく。今日はあまり補給地点を期待できない。
 ホテル街がある川沿いを離れ、北上してゆくと、豆田という地区がある。古い区割りが残った土地だという。確かに古風な区割りを思わせる、碁盤状の町並みがあった。古い建物はほとんどないのだが、まあそれは想像で補えということだろう。観光地化され、天領まちの駅なる観光案内所めいたところもあった。
 日田から国道212号を取れば、耶馬溪までまっしぐらだ、だが車が多そうなのと、長めのトンネルが待っていそうなのとで、ここは避けることにして、先に書いた県道を取る。
 ほとんど傾斜を感じないまま分岐点に到達し、県道720号に入った。ほぼ1車線だが、自動車がすれ違えるだけの道幅はある。すぐに傾斜が強まるが、平均5%程度という事前情報通り、重い荷物を抱えていても、それほど苦にはならない。
 目を東にやると、並走しているR212が見える。あちらはそれほど高度を上げてないようだ。でも良いのだ。こっちは車がちっとも来ないし、風光明媚ですばらしいのだ。本当に車が来ない。上りきった伏木という辺りに人里があるのだが、そこまでにすれ違ったのは郵政公社の軽トラだけだった。また沿道の、いや取り囲む森がすばらしく美しい。春のホンの一時期にしか見られない、萌黄色の葉が陽光にゆれている。まったく静かなもので、僕とこの風景以外、誰もいない。ただ心拍と相談しながら、坂道を上っていった。
 道は、川筋に沿って西上した後、さらに高度を上げつつ森の中をひた走り、やがて伏木の集落に到達する。この川沿いの道が最大傾斜だったが、それでも8%くらいだったろうか。
 伏木には、公園もあるようだが、人っ子一人いなかった。まったくすれ違う人がいなかったので、本当に住民がいるのだろうかと心配にすらなったが、やがて畑仕事をしている人々をチラホラと見かけるようになった。
 小学校の近くに公民館があり、そこに久しぶりに自販機を見かけたので、自転車を止めてコーヒーを買った。
 なんとも気持ちの良い土地だ。騒音の類は皆無で、観光地のおしつけがましさもまったくない。ただただ、山間の小さな平地に、可愛らしい人界が収まっている。自転車で過ぎ行くうちに、思わず笑顔になってしまう。空にはお日様、地には俺。これが旅だよ、これなんだ。
 伏木を過ぎると、道は下りになる。気持ち良く下りきった先が、R212との合流点、山国だ。要するに余計に登って下ったわけだが、目にした風景を思い返せば、悪い取引ではなかった。
 山国から中津までは、耶馬溪を通る自転車道が走っている。その始点と思しき地点に向かうと、なぜだか自転車の大集団が。どうやらここから走るつもりらしい、ローディーの一団らしい。今、サイクリングロードに突入すると、後でぞろぞろと抜かされるだろう。それは気分的に嫌だったので、彼らが出発するのを待った。
 ローディーをやり過ごし、サイクリングロードに入った。耶馬溪を抜ける中津山国サイクリングロードは、廃線となった耶馬溪鉄道の線路跡を再利用したものだ。なので、道路とはあまり並行せず、車のプレッシャーは皆無、騒音もほとんど感じない気ままな自転車旅ができる道なのだ。なにしろ線路の跡なんで、トンネルもあるのである。むやみに楽しい道だ。しかし車道と並行してない悲しさ、補給地点はほとんど無かった。おかげで、適当に昼食を取るつもりが、本耶馬溪まで突っ走る羽目になった。一箇所、駅の跡を利用した休憩所があった。
 本耶馬溪は風物館隣接のみやげ物屋で、そば団子の煮込みを食べる。この土地ではそばが主流のようだ。山間の痩せた土地では、小麦は収穫しにくいのだろう。自転車は、裏手の駐車場にそば饅頭の出店を構えていたおじさんに聞いたら、店の裏に止めて良いよと快く引き受けてくれたので、安心だった。そのおじさんの店でそば饅頭と桜饅頭を買う。さらに近所の店でイチゴワッフルアイスを買ってみた。ぜんぜん期待してなかったのだが、うまい。アイスが甘くさわやかな口当たりで、イチゴの酸味が引き立つ。
 本耶馬溪から少し下ると、もう青の洞門だ。大観光地らしく、大型バスが終結していた。とはいえ、青の洞門そのものは地味なものだ。人力で掘ったんだから、そんなに長大なものになるわけが無い。
 ここからさらに下った辺りから、道は完全に車道と並走する歩道の一部となる。この辺りからは、もう素直にR212を取ったほうが良かったかもしれない。
 中津のホテルについたのは、まだ15:00過ぎだった。早めに来たのは、先に荷物を置いてから、ちょっと観光したかったからだ。チェックインして、ホテルから少し北上した。JRの高架を超えると、古い町並みに出る。この辺、神社仏閣の類が、ただ事ではないほど多い。集めてみましたという感じだ。そんな場所のほど近くに、無神論者だったに違いない福沢諭吉の旧居がある。立派な資料館が併設されている。慶応閥の威光なのか。
 戦後に建設された天守閣を持つ中津城を眺め、アーケード街の薬屋に入った。今回、旅の準備に不備が2点あった。1つは替えの下着を忘れたこと、もう1つはサプリメントを忘れたことだ。下着は、必要なのはシャツだけなので*1、唯一の手持ちを毎日選択することで凌いだのだが、サプリは無いと困る。ので、買いに来たのだ。
 あいにく、サプリは置いてなかった。しかし、この店主は無類に人が良く、わざわざ置いていそうな別の店をいくつか教えてくれた。親切を感謝しながら市中を探し回り、結局はスーパーの薬品コーナーでアミノバイタルプロを買った。別に素人のほうで十分だし、飲み口も素人のほうが好きだが、せっかくなので買ってみた。
 ホテルに戻り、もう夕食を求めて外出する気力も無かったので、ホテルのレストランでオムライスを注文した。期待してなかったのだが、これがフンワリしたオムレツはもとより、それにかかったドミグラスソースも、なぜか添えられていた小ぶりなステーキも、深みのある美味しさにトシちゃん感激な代物だった。ホテルの飯は馬鹿にできないな。値段もなんだか安かったし。
 充実した気分で中津の夜を迎えた。

Add Comments


____